中小企業の経営者やマーケティング担当者の皆様、日々の業務お疲れ様です。限られたリソースの中で、会社の成長のために様々な施策を検討・実行されていることと思います。その中でも、ウェブサイト制作やパンフレット作成、ロゴデザインなど、「デザイン」に関わる発注は、企業の顔を作り、顧客との接点を強化する上で非常に重要な要素です。

しかし、このデザイン発注、残念ながら「思ったような成果が出なかった」「費用対効果が見合わなかった」といった失敗談を耳にすることも少なくありません。失敗の原因として、最新技術への対応不足や、デザイナーのスキル不足、あるいは単純にデザインの好みが合わなかった、といった点が挙げられることが多いようです。

確かに、技術選定やデザイナーのスキルも重要です。例えば、ウェブサイトであれば、表示速度が遅かったり、スマートフォンでの表示が崩れていたりすれば、ユーザー体験を損ない、機会損失に繋がるでしょう。

しかし、私たちは多くのデザインプロジェクトに関わる中で、技術選定のミス以上に、もっと根深く、そしてプロジェクトの成否に決定的な影響を与える「本質的な問題」が存在すると考えています。

それが、今回のテーマである「目的・ゴールの共有」の欠如です。

技術的な問題は、多くの場合、時間や追加費用をかければ修正可能です。

しかし、プロジェクトの根幹である「目的」がズレていたり、共有されていなかったりすると、どんなに優れた技術や美しいデザインを用いても、的外れな成果物しか生まれず、最悪の場合、プロジェクト全体が無駄な投資に終わってしまう危険性すらあるのです。

本記事では、なぜ技術選定ミスよりも「目的・ゴールの共有」の欠如が怖いのか、その原因と対策、そして目的共有がもたらす真の価値について、中小零細企業の皆様の視点に立って、具体的な事例を交えながら深掘りしていきます。

なぜ「目的・ゴールの共有」の欠如が技術選定ミスより怖いのか?

想像してみてください。あなたは、会社の認知度を上げ、新規顧客を獲得するために、新しいウェブサイトを制作することにしました。いくつかの制作会社に声をかけ、最新のデザインや技術トレンドに詳しいA社に発注を決めたとします。A社は、見た目も洗練され、アニメーションも滑らかな、技術的に非常に高度なウェブサイトを構築してくれました。

しかし、数ヶ月経っても、問い合わせ数は思うように増えません。

アクセス解析をしてみると、確かにサイト訪問者数は増えているものの、ターゲットとしていたはずの中小企業の経営者ではなく、デザインに興味のある学生や同業者が多く訪れていることがわかりました。なぜでしょうか?

考えられる原因の一つは、制作会社A社との間で、「誰に」「何を伝え」「どうなってほしいのか」という最も基本的な目的・ゴールが十分に共有されていなかった可能性です。

発注側は「新規顧客獲得」という漠然とした目的は持っていても、具体的なターゲット像や、ウェブサイトを通じて顧客にどのような行動(問い合わせ、資料請求、購入など)をとってほしいのか、そのためのKPI(重要業績評価指標)は何なのか、といった点を明確に伝えきれていなかったのかもしれません。

一方、制作会社A社は、技術力やデザインセンスをアピールすることに注力するあまり、「かっこいいサイトを作ること」が目的化してしまい、発注者の本来のビジネス目標達成に繋がる設計やコンテンツ提案が不足していたのかもしれません。

このケースでは、技術的には何の問題もありません。むしろ、高い技術力によってウェブサイトは構築されています。しかし、プロジェクトの「目的」が共有されず、ズレが生じていたために、ビジネス上の成果には結びつかなかったのです。これが、技術選定ミスよりも「目的・ゴールの共有」の欠如が怖い、と言われる所以です。

  • 技術はあくまで「手段」:目的達成のための道具に過ぎない
  • 目的の曖昧さは方向性の喪失:羅針盤を持たずに航海に出るようなもの
  • 成果の的外れ:どんなに高性能な道具も使い方が間違っていれば意味がない
  • 投資の無駄:ビジネス目標に貢献しないデザインは浪費と同じ

デザインは、単なる「見た目のお化粧」ではありません。それは、企業の課題を解決し、ビジネス目標を達成するための「戦略的なツール」であるべきです。

そして、そのツールを最大限に活かすためには、まず「何のためにそのツールを使うのか」という目的を、発注者と制作者が寸分の狂いなく共有することが不可欠なのです。

「目的・ゴールの共有」が欠如する、よくある原因

では、なぜデザイン発注において、この最も重要なはずの「目的・ゴールの共有」が欠如してしまうのでしょうか。いくつかの典型的な原因が考えられます。

1. 発注側の準備不足・丸投げ意識

「とにかくいい感じにしてほしい」「プロに任せるからよしなに」といった、漠然とした依頼の仕方は非常に危険です。

これは、発注者自身が、デザインを通じて何を達成したいのかを明確に言語化できていない、あるいは、考えることを放棄してしまっている状態と言えます。

もちろん、デザインの専門家ではない経営者や担当者の方が、具体的なデザインのアイデアまで考える必要はありません。

しかし、
「何のために(Why)」
「誰に(Who)」
「何を伝え(What)」
「どのような成果(Goal)を得たいのか」
といった、プロジェクトの根幹に関わる部分は、発注者側が主体的に考え、明確にしておく必要
があります。

「プロに任せる」ことと「丸投げ」することは全く異なります。プロの力を最大限に引き出すためには、発注者側もプロジェクトの目的達成に向けて主体的に関与し、必要な情報を提供する姿勢が求められます。

2. コミュニケーション不足・認識の齟齬

発注側と制作者側のコミュニケーションが不足していると、お互いの意図や認識にズレが生じやすくなります。
例えば、

  • 発注側が伝えたつもりの要望が、制作者側に正確に伝わっていない
  • 制作者側が良かれと思って行った提案が、発注側の意図と合わない
  • 専門用語の解釈の違いによる誤解
  • 打ち合わせ不足による情報共有の漏れ

こうしたコミュニケーション上の問題は、認識の齟齬を生み、手戻りやプロジェクトの遅延、そして最終的な成果の質の低下を招きます。特に、メールやチャットだけのやり取りに終始し、対面やオンラインでの深い対話の機会が少ない場合に起こりやすいと言えるでしょう。

3. 制作者側のヒアリング・提案力不足

発注側の準備不足やコミュニケーション不足だけでなく、制作者(デザイナーや制作会社)側のスキルや姿勢も、目的共有の欠如を招く一因となります。

  • 発注者の漠然とした要望の奥にある本質的な課題や目的を引き出すヒアリング能力の不足
  • 言われたことだけを形にする「作業者」に徹してしまい、戦略的な視点からの提案ができない
  • 技術やデザインのトレンドを優先し、発注者のビジネス目標達成という視点が欠けている

優れたデザイナーや制作会社は、単にデザインスキルが高いだけでなく、発注者のビジネスを理解し、課題解決に繋がる提案ができる「ビジネスパートナー」としての側面も持ち合わせています。

4. 短期的な視点・コスト偏重

「とにかく安く」「早く作ってほしい」という要求が先行しすぎると、本来時間をかけて行うべき目的の明確化や共有プロセスが省略されてしまうことがあります。

初期段階でのヒアリングや要件定義を軽視し、すぐにデザイン制作に取り掛かろうとすると、後になって大きな手戻りが発生したり、的外れな成果物ができあがったりするリスクが高まります。

初期投資を抑えることばかりに目を向けると、結果的にビジネス目標を達成できず、より大きな損失を招く可能性があることを理解しておく必要があります。

これらの原因は、単独で存在することもあれば、複合的に絡み合っていることもあります。重要なのは、こうした原因に陥らないよう、発注者・制作者双方が意識的に対策を講じることです。

失敗しない!デザイン発注で「目的・ゴール」を共有するためのポイント

では、デザイン発注で失敗しないために、どのように「目的・ゴール」を共有していけばよいのでしょうか。ここでは、中小零細企業の経営者や担当者の皆様が、すぐに実践できる具体的なポイントをご紹介します。

1. 発注前に「自社の課題と目的」を徹底的に明確化する

デザイナーや制作会社に相談する前に、まずは社内で以下の点について議論し、明確にしておくことが極めて重要です。

  • 現状の課題:今、会社や事業が抱えている具体的な問題は何か?(例:新規顧客が獲得できない:ウェブサイトからの問い合わせが少ない:ブランドイメージが古い)
  • デザインに期待する役割:その課題解決のために、デザイン(ウェブサイト、パンフレットなど)に何を期待するのか?(例:問い合わせ数を〇〇%増やす:ターゲット層への認知度を高める:信頼感を醸成する)
  • 具体的なターゲット像:デザインを通じて、誰に情報を届けたいのか?(年齢、性別、職業、役職、価値観、抱えている悩みなど、具体的に)
  • 達成したいゴール(KPI):プロジェクトが成功したと言える具体的な指標は何か?(例:ウェブサイト経由の月間問い合わせ数〇件:資料請求数〇件:特定ページの閲覧数〇〇PV)
  • 予算と納期:プロジェクトにかけられる予算と、いつまでに完成させたいか?

発注者自身がプロジェクトの目的とゴールを深く理解し、自分の言葉で語れる状態になっていることが理想です。これらの情報が明確であればあるほど、デザイナーとのコミュニケーションはスムーズになり、より的確な提案を引き出すことができます。可能であれば、これらの情報をまとめた簡単な「オリエンテーションシート」や「RFP(提案依頼書)」を作成しておくと良いでしょう。

2. パートナーとなるデザイナー・制作会社を慎重に選定する

デザイン制作を依頼するパートナー選びは、プロジェクトの成否を左右する重要なプロセスです。単に制作実績やデザインのテイストだけで選ぶのではなく、以下の点も考慮しましょう。

  • ヒアリング能力:あなたの会社のビジネスや課題、目的を深く理解しようと努めてくれるか?
  • コミュニケーション能力:専門用語を分かりやすく説明してくれるか:質問しやすい雰囲気か:報告・連絡・相談がスムーズか?
  • 提案力:あなたの目的達成のために、戦略的な視点からの提案をしてくれるか?
  • 業界への理解:あなたの会社の業界やターゲット層について、ある程度の知識や関心を持っているか?
  • 相性:長期的な視点で、信頼関係を築けそうな相手か?

複数の候補と実際に打ち合わせを行い、コミュニケーションを通じて、これらの点を確認することが重要です。見積もり金額だけで判断せず、信頼できるパートナーを見つけることに時間をかけましょう。

3. キックオフミーティングで認識を徹底的にすり合わせる

プロジェクトを開始する際には、必ず関係者全員(発注側の責任者・担当者、制作者側のディレクター・デザイナーなど)が集まる「キックオフミーティング」を実施しましょう。この場で、事前に明確化したプロジェクトの目的、ゴール、ターゲット、KPI、スケジュール、役割分担などを改めて共有し、全員の認識が完全に一致しているかを確認します。

疑問点や懸念点があれば、この段階で全て解消しておくことが重要です。ここで認識のズレを残したまま進むと、後々大きな問題に発展する可能性があります。

4. プロジェクト進行中も密なコミュニケーションを継続する

キックオフミーティングで目的を共有したら終わりではありません。プロジェクトの進行中も、定期的な進捗確認やフィードバックの機会を設け、コミュニケーションを密に取り続けることが大切です。

  • 定期的な打ち合わせ:週に1回、あるいは隔週に1回など、定例ミーティングを設定する
  • デザイン確認とフィードバック:作成されたデザイン案に対して、単なる好き嫌いではなく、「目的達成に貢献するかどうか」という視点で具体的なフィードバックを行う
  • 認識のズレの早期発見・修正:コミュニケーションを通じて、認識のズレや問題点を早期に発見し、軌道修正を図る
  • 情報共有ツールの活用:チャットツールやプロジェクト管理ツールなどを活用し、効率的に情報共有を行う

良いことも悪いこともオープンに共有し、問題が発生した際にも協力して解決策を探る姿勢が、プロジェクト成功の鍵となります。発注者側も「受け身」になるのではなく、プロジェクトの一員として主体的に関わることが求められます。

5. デザインの評価基準を明確にする

デザインの評価は、個人の主観に左右されやすい側面があります。しかし、ビジネスにおけるデザインは、その「目的達成への貢献度」で評価されるべきです。「かっこいい」「おしゃれ」といった曖昧な基準ではなく、「ターゲットに響くか」「メッセージが伝わるか」「目的とする行動を促すか」といった、事前に設定した目的・ゴールに照らし合わせて評価することが重要です。

評価基準が明確であれば、フィードバックも具体的になり、デザイナーとの建設的な対話が可能になります。

これらのポイントを意識し、実践することで、デザイン発注における「目的・ゴールの共有」の欠如という最大のリスクを回避し、プロジェクトを成功に導くことができるでしょう。

「目的・ゴール」の共有がもたらす、デザイン投資の真の価値

技術選定や見た目の美しさもさることながら、発注者と制作者の間で「目的・ゴール」が深く共有されたデザインプロジェクトは、企業にとって計り知れない価値をもたらします。

1. 費用対効果の高いデザイン投資の実現

目的が明確であれば、それに合致しない無駄な機能や装飾にコストをかける必要がなくなります。本当に必要な要素にリソースを集中させることで、費用対効果の高い、賢いデザイン投資が可能になります。作ってはみたものの、全く成果に繋がらない、といった最悪の事態を避けることができます。

2. 事業課題の解決とビジネス成長への貢献

共有された目的・ゴールに基づいて制作されたデザインは、単なる「見た目が良いもの」ではなく、具体的なビジネス課題の解決に貢献します。

  • ターゲット顧客への効果的なアプローチによる新規顧客獲得
  • ブランドイメージ向上による企業価値の向上
  • ウェブサイトのコンバージョン率改善による売上増加
  • 採用活動における魅力的な情報発信による優秀な人材の獲得

このように、デザインが戦略的に活用されることで、企業の持続的な成長を力強く後押しします。

3. スムーズなプロジェクト進行と関係者間の良好な連携

目的・ゴールという共通の羅針盤があれば、プロジェクト進行中の意思決定もスムーズになります。意見が分かれた際にも、「どちらがより目的に適っているか」という明確な判断基準があるため、建設的な議論が可能です。これにより、無用な対立や手戻りを減らし、プロジェクトに関わる全員が同じ方向を向いて協力し合う、良好な関係性を築くことができます。

4. 長期的なパートナーシップの構築

目的を共有し、共にプロジェクトを成功させた経験は、発注者と制作者の間に強い信頼関係を育みます。単なる受発注の関係を超え、企業のビジネスを深く理解し、長期的な視点で課題解決をサポートしてくれる「共創パートナー」としての関係を築くことができれば、それは企業にとって大きな財産となるでしょう。

技術は日々進化し、トレンドも移り変わります。しかし、ビジネスの「目的」を定め、それを達成するために最適な「戦略」を練り、関係者間で「共有」するというプロセスは、普遍的な成功法則と言えるでしょう。デザイン投資を成功させる鍵は、最新技術の導入や見た目の洗練度以前に、発注者と制作者がいかに深く「目的・ゴール」を共有できるかにかかっているのです。

まとめ:技術より怖い「目的・ゴール共有」の欠如を乗り越えるために

本記事では、デザイン発注における失敗の本質として、技術選定ミスよりも深刻な影響を与える「目的・ゴールの共有」の欠如について解説してきました。

どんなに優れた技術やデザインセンスを持つ制作会社に依頼しても、プロジェクトの根幹である「何のために作るのか」「それによって何を達成したいのか」という目的・ゴールが曖昧であったり、発注者と制作者の間で共有されていなかったりすれば、その投資が実を結ぶことはありません。

デザインは、単なる装飾ではなく、企業の課題を解決し、ビジネス目標を達成するための強力な武器となり得ます。その力を最大限に引き出すためには、発注者自身がまず自社の課題と目的を深く理解し、それを明確な言葉でパートナーとなるデザイナーや制作会社に伝え、そしてプロジェクトを通じて常にその目的・ゴールに立ち返ることが不可欠です。

これからデザイン発注を検討されている中小零細企業の経営者、マーケティング担当者の皆様へ。ぜひ、今回の内容を参考に、自社のデザイン発注プロセスを見直してみてください。

  • 発注前に、目的・ゴール・ターゲットを明確にできていますか?
  • パートナー選びにおいて、コミュニケーション能力や提案力を重視していますか?
  • キックオフミーティングで、関係者全員の認識をすり合わせていますか?
  • プロジェクト進行中、密なコミュニケーションを保っていますか?
  • デザインの評価を、目的達成への貢献度で行っていますか?

技術的な側面に目を奪われることなく、「目的・ゴールの共有」という最も本質的な要素に時間と意識を向けること。それが、デザイン投資を成功させ、企業の持続的な成長を実現するための、確かな第一歩となるはずです。

あなたの会社のデザインプロジェクトが、ビジネスを加速させる大きな力となることを願っています。


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