デザインを取り巻く環境の変化

近年、AI(人工知能)技術の進化は目覚ましく、私たちのビジネスや生活のあらゆる側面に影響を与え始めています。デザインの世界も例外ではありません。かつては専門的なスキルを持つデザイナーだけが可能だった作業の一部を、AIが代行できるようになりつつあります。

ロゴ作成、バナー広告のデザイン、ウェブサイトのテンプレート生成など、AIを活用したデザインツールが次々と登場し、その精度やスピードは日々向上しています。

このような状況は、特にリソースが限られることの多い中小零細企業の経営者やマーケティング担当者の皆様にとって、大きな関心事ではないでしょうか。
「AIを使えば、デザインコストを大幅に削減できるのでは?」
「デザイナーに頼む必要はなくなるのだろうか?」
「AIとデザイナー、どちらに依頼するのが最適なのか?」
といった疑問が頭をよぎるかもしれません。

AI時代の到来は、デザイン制作のプロセスを根本から変える可能性を秘めていますが、同時に新たな課題や選択肢をもたらしています。

本記事では、AIと人間のデザイナー、それぞれの強みと限界を整理し、これからの時代に企業がデザインをどのように発注し、活用していくべきか、その最適な方法を探っていきます。単に「AIか、人間か」という二元論ではなく、両者をいかに賢く組み合わせ、ビジネスの成果に繋げるかという視点が重要になります。

AIデザインツールの現状:可能性と限界

まず、現在のAIデザインツールがどのような能力を持っているのか、具体的に見ていきましょう。

AIデザインツールのできること

  • ロゴデザインの自動生成:キーワードや業種を入力するだけで、複数のロゴ案を瞬時に作成
  • バナー広告のデザイン:サイズやターゲット層に合わせて、複数のデザインバリエーションを提案
  • Webサイトテンプレートの作成:基本的なレイアウトや配色パターンを自動生成
  • 画像生成:テキストによる指示(プロンプト)に基づいて、オリジナルの画像を生成
  • 画像編集・加工:背景の切り抜き、解像度の向上、色調補正などを自動化
  • デザイン案の大量生成:特定のテーマやスタイルに基づき、多数のデザインアイデアを短時間で提示

これらの機能は、特にスピードと量が求められる場面で大きな力を発揮します。AIは驚異的なスピードと効率性で、デザインの選択肢を広げるツールとして、多くの企業にとって魅力的な存在となっています。

AIデザインツールのメリット

  • スピード:人間が行うよりもはるかに短時間でデザイン案を作成可能
  • コスト削減:AIデザインツールの最大のメリットは、時間とコストの大幅な削減です。特に定型的なデザインや、多くのバリエーションが必要な場合に効果を発揮
  • 量産性:大量のデザインパターンやバリエーションを容易に生成
  • 24時間稼働:時間や場所を選ばずに、いつでもデザイン作業に着手可能
  • アイデア出しの補助:デザイナーが思いつかないような意外な組み合わせやパターンを提示することも

AIデザインツールの限界とデメリット

一方で、現在のAIデザインツールには限界も存在します。

  • 創造性と独自性の限界:AIは過去の膨大なデータに基づいて学習し生成するため、真に独創的で、既成概念を打ち破るようなアイデアを生み出すのは苦手です。既存のデザインの組み合わせや模倣になりがち
  • 文脈・意図の理解不足:企業のブランド哲学、ターゲット顧客の微妙な感情、マーケティング戦略の深い意図などを完全に汲み取ってデザインに反映させることは難しい
  • 細やかな調整・修正の難しさ:「もう少しだけ温かみのある雰囲気に」「この部分だけ、少しだけ右にずらして」といった、人間の感覚に基づいたニュアンスの調整には限界がある
  • 倫理的・著作権の問題:学習データに含まれる著作物の権利侵害や、生成されたデザインのオリジナリティに関する問題が指摘されることも
  • コミュニケーション能力の欠如:依頼者の曖昧な要望をヒアリングし、具体的なデザインに落とし込むといった対話は不可能

現在のAIは、人間の持つ深い共感力や創造性、文脈を読み解く力を完全に再現することは困難であり、あくまでツールとしての側面が強いと言えます。

デザイナーの価値:AIにはない強み

AIデザインツールが進化する一方で、人間のデザイナーならではの価値は依然として、そして今後ますます重要になっていくと考えられます。AIにはない、デザイナー特有の強みを見ていきましょう。

戦略的思考と問題解決能力

デザイナーの真価は、単に見た目を美しく整えるだけでなく、ビジネス上の課題や目的を深く理解し、それを解決するための戦略的な思考にあります。

  • 目的の明確化:クライアントとの対話を通じて、デザインによって何を達成したいのか(売上向上、認知度アップ、ブランディングなど)を明確にする
  • ターゲット理解:ターゲット顧客のニーズ、価値観、行動様式などを深く洞察し、彼らに響くデザインを考案する
  • 競合分析:市場における競合のデザインを分析し、差別化を図るための戦略を立案する
  • コンセプト構築:デザイン全体を貫く、一貫したコンセプトやストーリーを構築する

共感力とコミュニケーション能力

デザインは、企業と顧客をつなぐコミュニケーション手段です。デザイナーは、その架け橋となる重要な役割を担います。

  • クライアントの意図の汲み取り:言葉にならない想いや、漠然としたイメージを丁寧にヒアリングし、具体的なデザインへと翻訳する
  • ブランドの本質を理解し、ターゲットの心に響くストーリーをデザインに込める力
  • 多様な関係者との調整:プロジェクトに関わる様々なステークホルダー(経営者、マーケター、エンジニアなど)と円滑にコミュニケーションを取り、合意形成を図る

創造性と独自性

AIが過去のデータの組み合わせであるのに対し、デザイナーは経験、感性、そして時には直感に基づいて、全く新しい価値を生み出すことができます。

  • オリジナリティの追求:既存の枠にとらわれず、ブランド独自の個性を表現する独創的なデザインを生み出す
  • トレンドの先読み:時代の空気や社会の変化を敏感に察知し、未来を見据えたデザインを提案する
  • 細部へのこだわり:タイポグラフィ、色彩、レイアウト、質感など、細部にまでこだわり抜き、デザイン全体の質を高める

倫理観と責任感

デザインが社会に与える影響を理解し、倫理的な配慮を持って制作に取り組む姿勢も、プロのデザイナーに求められる重要な要素です。また、制作したデザインに対して責任を持つという点も、AIにはない人間ならではの価値と言えるでしょう。

これらの能力は、単なる作業の自動化では代替できない、人間特有の高度な知的能力や感性に基づいています。

AIとデザイナーの協業:最適な活用法を探る

AIとデザイナーは、対立する存在ではありません。互いの強みを理解し、弱みを補い合うことで、より効果的かつ効率的に、質の高いデザインを生み出す協業関係を築くことが、これからの時代の鍵となります。では、具体的にどのように連携・活用していくのが最適なのでしょうか。

AIが得意な領域と活用例

  • アイデアの壁打ち・ブレインストーミング:AIに大量のデザイン案を生成させ、それを叩き台としてデザイナーが発想を広げる
  • 定型業務の自動化:バナー広告のサイズ展開、画像の簡単なレタッチ、SNS投稿用画像のテンプレート作成など、時間のかかる反復作業や定型業務をAIに任せる
  • 初期案・ラフ案の作成:AIで大まかなレイアウトや配色パターンを作成し、デザイナーがそれを基にブラッシュアップする
  • A/Bテスト用の素材作成:複数のデザインパターンを効率的に生成し、効果測定に活用する
  • ムードボード作成:キーワードから関連画像を収集・整理させ、デザインの方向性を固める補助として利用する

このように、AIを「高速で疲れ知らずのアシスタント」として活用し、デザイナーはより創造的・戦略的な業務に集中するという分担が考えられます。

デザイナーが主導すべき領域

一方で、以下の領域は引き続き、人間のデザイナーが中心的な役割を担うべきです。

  • 戦略策定とコンセプト開発:ビジネス目標に基づいたデザイン戦略の立案、ブランドストーリーの構築
  • クライアントとのコミュニケーション:深いヒアリングによるニーズの把握、意図の汲み取り、提案、合意形成
  • 独自性と創造性が求められるデザイン:企業の顔となるロゴ、ブランドイメージを決定づけるキービジュアル、複雑なUI/UXデザインなど
  • 最終的な品質管理と意思決定:AIが生成したデザイン案の評価、細部の調整、ブランドイメージとの整合性確認、最終的なデザインの決定
  • 倫理的判断と社会的責任:デザインが与える影響を考慮した制作

具体的な連携パターン例

1. AIで叩き台作成 → デザイナーがブラッシュアップ

  • AIでロゴやWebサイトの初期案を複数生成
  • デザイナーがそれらを評価・選定し、企業の理念やターゲットに合わせて洗練させる
  • 細部の調整、オリジナリティの付加、ブランドとしての一貫性を確保

2. デザイナーがコンセプト策定 → AIでバリエーション展開

  • デザイナーが中心となり、デザインの方向性、キーとなる要素、配色などを決定
  • 決定したコンセプトに基づき、AIを用いてバナー広告やSNS画像などのバリエーションを大量生成
  • デザイナーは生成されたものをチェックし、品質を担保

3. AIをアイデア出しのパートナーとして活用

  • デザイナーが行き詰まった時、AIにキーワードを与えて多様なビジュアル案を出力させる
  • AIによる予期せぬ提案から、デザイナーが新たなインスピレーションを得る
  • 得られたヒントを元に、デザイナーが独自のアイデアへと昇華させる

これらの連携パターンは一例であり、プロジェクトの目的、予算、納期、求める品質などによって、最適な組み合わせは異なります。重要なのは、AIとデザイナー、それぞれの特性を理解し、プロジェクトごとに最適な役割分担を設計することです。

中小零細企業におけるAIとデザイナーの賢い活用法

予算や人員に限りがある中小零細企業にとって、AIデザインツールの登場は大きなチャンスであると同時に、どのように活用すべきか悩ましい問題でもあります。中小零細企業こそ、限られたリソースを最大限に活かすために、AIとデザイナーの最適な組み合わせを戦略的に検討すべきです。

ステップ1:目的の明確化

まず、デザインを通じて何を達成したいのか、その目的を明確にすることが、適切な発注・活用の第一歩です。

  • 短期的な売上向上:キャンペーン用のLPやバナー広告など、即効性が求められるものか
  • ブランドイメージの構築・向上:企業の理念や価値観を伝え、顧客との長期的な関係性を築くためのものか
  • 業務効率の改善:社内資料のデザイン統一や、Webサイト更新の効率化など

目的によって、求めるデザインの質、必要な独自性、スピード感などが変わってきます。

ステップ2:デザインに求めるレベルの決定

次に、目的に応じて、デザインにどの程度のレベルを求めるかを判断します。

  • スピード・コスト最優先:とにかく早く、安く、最低限のデザインが必要な場合(例:一時的な告知物、社内用資料)→ AIツールの活用や、低価格のデザインサービスが候補に
  • 品質・独自性重視:企業の顔となるロゴ、Webサイト、パンフレットなど、ブランドイメージに関わる重要なもの → プロのデザイナーへの依頼が不可欠
  • バランス型:ある程度の品質は保ちつつ、コストも抑えたい場合(例:SNS投稿画像、ブログのアイキャッチ)→ AIとデザイナーの協業、あるいはスキルを持つ社内担当者によるAIツール活用などが考えられる

安易なAI利用は、ありきたりなデザインを生み出し、かえってブランド価値を損なうリスクも伴います。特に、企業の独自性や信頼性が重要となる場面では、プロのデザイナーの戦略的な視点と創造性が不可欠です。

ステップ3:適切な発注先・ツールの選定

目的と求めるレベルが決まったら、具体的な発注先やツールを選定します。

  • AIデザインツールの活用:無料または低価格で利用できるツールも多い。まずは試してみて、自社のニーズに合うか、求める品質が得られるかを確認する。ただし、操作にはある程度の慣れが必要な場合も。
  • フリーランスデザイナーへの依頼:比較的コストを抑えつつ、プロのスキルを活用できる。ポートフォリオや実績、コミュニケーションの相性などをしっかり確認することが重要。
  • デザイン制作会社への依頼:企画・戦略段階からトータルでサポートを受けられる。品質は高いが、コストも比較的高くなる傾向。

デザイナーを選ぶ際には、単に過去の制作実績(ポートフォリオ)を見るだけでなく、コミュニケーションが円滑か、自社のビジネスや課題への理解力があるか、といった点も重視しましょう。また、AIツールに関する知識を持ち、AIとの連携を視野に入れた提案ができるデザイナーは、今後ますます頼りになる存在となるでしょう。

発注時の注意点

AIを活用する場合でも、デザイナーに依頼する場合でも、発注側として以下の点を明確に伝えることが成功の鍵となります。

  • デザインの目的:何を達成したいのか
  • ターゲット顧客:誰に届けたいのか
  • ブランドイメージ:どのような印象を与えたいのか
  • 必須要素:ロゴ、キャッチコピー、含めてほしい情報など
  • 参考イメージ:好みのデザインや競合のデザインなど(あれば)
  • 予算と納期

これらの情報が具体的であるほど、AIもデザイナーも、より的確なアウトプットを出すことができます。

AIとデザインの未来:変化するデザイナーの役割

AI技術はこれからも進化を続け、デザインの制作プロセスはさらに変化していくでしょう。AI技術は日々進化しており、企業もデザイナーも、常に最新情報をキャッチアップしていく姿勢が求められます。単純な作業はますますAIに代替されていく可能性がありますが、それはデザイナーの仕事がなくなることを意味するわけではありません。

むしろ、デザイナーにはこれまで以上に、

  • 戦略的な思考力
  • 課題解決能力
  • コンセプト構築力
  • コミュニケーション能力
  • AIを使いこなす能力

といった、より高度で人間的なスキルが求められるようになります。AIを単なる競合として恐れるのではなく、強力なパートナーとして使いこなし、自らの創造性を拡張していく。そんなデザイナーが、これからの時代をリードしていくことになるでしょう。

企業側も、AIの能力を過信したり、逆に過度に恐れたりするのではなく、その特性を正しく理解し、戦略的に活用していく視点が重要です。

AI時代を勝ち抜くためのデザイン戦略

AI技術の発展は、デザイン発注のあり方に大きな変化をもたらしています。AIデザインツールは、スピード、コスト、量産性において大きなメリットを提供しますが、創造性、文脈理解、細やかな調整には限界があります。一方、人間のデザイナーは、戦略的思考、共感力、独自性といった、AIにはない価値を提供します。

これからの時代、成功する企業は、AIとデザイナーを対立するものとして捉えるのではなく、それぞれの強みを理解し、自社の目的や状況に合わせて最適な形で組み合わせ、活用していくことになるでしょう。AIとデザイナー、それぞれの特性を理解し、自社の戦略に合わせて賢く活用していくことが、これからの時代の成功の鍵となります。

重要なのは、流行りの技術に飛びつくだけでなく、自社のビジネスにとって本当に必要なデザインとは何か、その目的を達成するためにはどのような手段が最適なのかを常に考え続けることです。そして、最終的なデザインの責任は、AIではなく、それを利用する人間(企業)にあることを忘れてはなりません。

本記事が、中小零細企業の経営者、マーケティング担当者、ウェブサイト運営責任者の皆様にとって、AI時代のデザイン発注について考える一助となれば幸いです。自社に合った最適な方法を見つけ出し、デザインを強力な武器としてビジネスを成長させていきましょう。


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