デザインは「余裕があったら」から「必須対策」へ

「あの会社、最近すごく伸びてるけど、何が変わったんだろう?」

街で見かける洗練された店舗、使いやすいウェブサイト、思わず手に取りたくなる商品パッケージ。私たちは日々、様々なデザインに触れています。そして、なぜか惹かれる企業やサービスには、多くの場合、優れたデザインが伴っていることに気づくはずです。

多くの中小企業の経営者様や担当者様にとって、「デザイン」はまだどこか「余裕ができたら取り組むもの」「専門的でよくわからないもの」といったイメージがあるかもしれません。「うちは技術力で勝負だ」「まずは目先の売上を確保しないと」といった声も、決して少なくないでしょう。確かに、日々の業務に追われる中で、デザインにまでなかなか手が回らない、というのが実情かもしれません。

しかし、現代のビジネス環境において、デザインはもはや単なる「装飾」や「余裕があったらやるもの」ではありません。 企業のブランド価値を高め、顧客との良好な関係を築き、ひいては売上を向上させるための、極めて重要な「経営戦略」となりつつあります。

情報が溢れ、消費者の選択肢が多様化する中で、自社の製品やサービスの価値を的確に伝え、競合との差別化を図るためには、デザインの力が不可欠です。優れたデザインは、言葉以上に雄弁に企業の理念や魅力を語り、顧客の心を掴む力を持っています。

本記事では、なぜ一部の企業がデザインを武器に成功を収めているのか、その秘密を探ります。そして、リソースが限られる中小企業が、デザインの力を最大限に活用し、「売れる」ための設計図を描くにはどうすればよいのか、具体的なステップと共に解説していきます。デザインに対する考え方を少し変えるだけで、あなたのビジネスに大きな変化が訪れるかもしれません。

第1章:「売れる」デザインとは何か? 見た目だけではない、戦略的な価値

「デザインが良い」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか? 美しい色彩、洗練されたフォルム、おしゃれな雰囲気… もちろん、それらもデザインの重要な要素です。しかし、ビジネスにおける「売れる」デザインは、それだけではありません。

真に「売れる」デザインとは、企業の持つ価値やメッセージを、ターゲット顧客に最も効果的に伝え、共感を生み出し、最終的に購買や利用といった行動へと結びつける力を持つものです。それは、見た目の美しさだけでなく、機能性、使いやすさ、そして何よりも「企業の戦略」と密接に結びついています。

デザインが影響する範囲は想像以上に広い

私たちが「デザイン」と聞いてまず思い浮かべるのは、ロゴマークやウェブサイト、パンフレットといった目に見える部分かもしれません。しかし、戦略的なデザインが影響を及ぼす範囲は、それよりもずっと広大です。

  • ウェブサイト・ECサイト:企業の顔であり、情報提供や販売の拠点
  • 商品・サービスそのもの:機能性、使いやすさ、形状、色
  • パッケージデザイン:商品の魅力を伝え、購買意欲を刺激する
  • 広告・販促物:ターゲットに響くメッセージとビジュアル
  • 店舗・オフィス空間:ブランドの世界観を体験させる場
  • 名刺・封筒・資料:企業の信頼性や個性を伝えるツール
  • 従業員の制服・接客態度:企業文化やブランドイメージの体現

これら顧客が企業と接するあらゆる「タッチポイント」において、デザインは重要な役割を果たしています。そして、これらのデザイン要素がバラバラな印象を与えるのではなく、一貫したメッセージとトーンで統一されていることが、強いブランド力を生み出す鍵となります。

「なんとなく」のデザインから「戦略的」なデザインへ

多くの場合、デザインは「なんとなくかっこいいから」「流行っているから」といった感覚的な理由で決められてしまいがちです。しかし、それでは期待する効果を得ることは難しいでしょう。

戦略的なデザインとは、企業の経営目標やマーケティング戦略に基づいて、デザインの目的、ターゲット、伝えるべきメッセージ、そして具体的な表現方法を明確に定義し、実行していくプロセスです。

例えば、「新規顧客を獲得したい」という目標があれば、ターゲット顧客が魅力を感じるであろうデザインテイストや、分かりやすく行動を促すためのウェブサイト設計が必要になります。「ブランドイメージを高めたい」のであれば、企業の理念やストーリーを反映した、高級感や信頼性を感じさせるデザインが求められるでしょう。

このように、デザインを単なる「作業」として捉えるのではなく、「経営課題を解決するための手段」として位置づけることが、成功への第一歩となります。

第2章:なぜ成功企業はデザインに投資するのか? 事例に学ぶ「売れる」設計図の核心

では、なぜデザインに力を入れている企業は、目覚ましい成果を上げることができるのでしょうか。ここでは、具体的な企業名や商品名は避けつつ、成功企業に共通して見られる「売れる」設計図の核心に迫ります。

1. 顧客への深い洞察:「誰に」を徹底的に考える

成功している企業のデザインは、決して独りよがりではありません。その根底には、ターゲット顧客に対する深い理解と共感があります。

彼らは、自社の製品やサービスを「誰に」届けたいのかを徹底的に考え抜いています。

  • 顧客はどんなライフスタイルを送っているのか
  • どんな価値観を持っているのか
  • どんな課題や悩みを抱えているのか
  • 情報収集はどのように行い、何に影響されるのか
  • 購入に至るプロセスはどのようなものか

これらの問いに対して、アンケート調査、顧客インタビュー、ウェブサイトのアクセス解析、SNSでの反応分析など、様々な手法を用いて答えを探し続けます。そして、得られた顧客インサイト(深層心理や本音)を、デザインのあらゆる側面に反映させていくのです。

例えば、ある食品メーカーは、健康志向の強い働く女性をターゲットに設定。忙しい毎日の中でも手軽に栄養バランスを整えたい、というニーズを捉え、パッケージデザインには、具体的な栄養価や調理の手軽さを分かりやすく表示。色使いや写真も、健康的で洗練されたイメージを演出し、ターゲット層の共感を呼ぶことに成功しました。

2. 魅力的な物語(ストーリー)の構築:「らしさ」をデザインで語る

人は論理だけでなく、感情で動く生き物です。製品のスペックや機能がいかに優れていても、それだけでは顧客の心を掴むことはできません。成功企業は、自社ならではの「物語(ストーリー)」を大切にし、それをデザインを通じて効果的に伝えています。

  • 創業の経緯や理念:なぜこの事業を始めたのか
  • 製品開発に込められた想い:どんな苦労やこだわりがあったのか
  • 社会や地域への貢献:自社の存在が世の中にどう役立っているのか
  • 顧客とのエピソード:製品やサービスを通じて生まれた感動体験

これらの物語は、企業の「らしさ」を形作る重要な要素です。ロゴマークに込められた意味、ブランドカラーの選定理由、ウェブサイトで語られる言葉、写真一枚の雰囲気に至るまで、一貫した物語をデザインで表現することで、顧客は単なる製品やサービスではなく、その背景にある想いや価値観に共感し、ファンになっていくのです。

ある老舗の道具メーカーは、長年受け継がれてきた職人の技と、時代に合わせて進化し続ける革新性をブランドストーリーの核としました。ウェブサイトやカタログでは、製品の機能説明だけでなく、製造工程の映像や職人へのインタビューを掲載。ロゴやパッケージも、伝統を感じさせつつも古臭くならない、モダンなデザインを採用しました。これにより、単なる道具としてだけでなく、「長く愛用したい、信頼できるブランド」としての地位を確立しました。

3. 顧客体験(CX)全体をデザインする:点ではなく線で捉える

優れたデザイン戦略は、個々のデザイン要素を点で捉えるのではなく、顧客が企業と関わる一連の体験(カスタマージャーニー)を線で捉え、最適化しようとします。

  • 認知段階:広告やSNSで興味を持つ
  • 情報収集段階:ウェブサイトやカタログで詳細を知る
  • 比較検討段階:競合と比較し、問い合わせや資料請求を行う
  • 購入段階:店舗やECサイトで購入する
  • 利用段階:製品やサービスを実際に使う
  • 購入後(ファン化)段階:サポートを受けたり、リピート購入したり、口コミを発信する

これらの各段階において、顧客がストレスなく、心地よく、そして感動するような体験を提供するために、デザインは重要な役割を果たします。

例えば、あるアパレルECサイトは、単に商品を並べるだけでなく、コーディネート提案や詳細なサイズ表記、購入者のレビューなどを充実させることで、オンラインでも安心して購入できる体験を提供。購入後の返品・交換プロセスも分かりやすくスムーズにし、顧客との長期的な関係構築に成功しています。これは、ウェブサイトのデザインだけでなく、物流やカスタマーサポートといった裏側の仕組みまで含めて、顧客体験全体を設計しているからこそ実現できるのです。

4. データと感性の融合:改善を止めない文化

デザインは「作って終わり」ではありません。成功企業は、デザインの効果を客観的に測定し、継続的に改善していく文化を持っています。

  • ウェブサイト:アクセス数、離脱率、コンバージョン率の変化
  • 広告:クリック率、問い合わせ数、費用対効果
  • パッケージ:店頭での視認性、購買率の変化
  • アンケート:デザインに対する顧客満足度

これらのデータを分析し、「どのデザイン要素が目標達成に貢献しているのか」「どこに改善の余地があるのか」を常に検証しています。A/Bテスト(複数のデザイン案を比較検証する手法)などを活用し、より効果の高いデザインを追求し続けるのです。

しかし、データだけが全てではありません。データでは測れない「美しさ」「心地よさ」「驚き」といった感性的な価値も、デザインにおいては非常に重要です。成功企業は、データに基づいた論理的な判断と、デザイナーの持つ感性や創造性をうまく融合させ、他社には真似できない独自の価値を生み出しています。

これらの要素が組み合わさることで、単なる「見た目が良い」を超えた、「売れる」ための強力な設計図が完成するのです。

第3章:中小企業が描くべき「売れる」設計図:今日から始める5つのステップ

「成功企業の事例は分かったけれど、うちのような中小企業には、そんな大掛かりなことは難しい…」

そう感じられた方もいらっしゃるかもしれません。確かに、リソースには限りがあります。しかし、諦める必要は全くありません。中小企業だからこそできる、身の丈に合った「売れる」設計図の描き方があります。ここでは、そのための具体的な5つのステップをご紹介します。

ステップ1:自社の「核」を見つめ直し、言語化する

デザイン戦略を始める前に、まず立ち止まって自社の根本を見つめ直すことが重要です。

  • 自社の「強み」は何か?:技術力、ノウハウ、実績、歴史、地域密着、小回りの良さなど
  • 「誰に」届けたいのか?:ターゲット顧客の具体的な人物像(ペルソナ)を明確にする
  • 顧客に提供できる「価値(ベネフィット)」は何か?:単なる機能ではなく、顧客が抱える課題をどう解決し、どんな未来を提供できるか
  • 自社が目指す「理想の姿」は?:将来的にどんな企業になりたいか、社会にどう貢献したいか

これらの問いに対する答えを、経営者だけでなく、従業員も交えて議論し、明確な言葉で定義しましょう。これが、あらゆるデザインの方向性を決める上での揺るぎない「羅針盤」となります。意外と自社の強みや価値を客観的に把握できていないケースは少なくありません。このプロセス自体が、企業の進むべき道筋を明確にする良い機会にもなります。

ステップ2:デザインに投資する「目的」を定める

次に、なぜデザインを見直すのか、その「目的」を具体的に設定します。目的が曖昧なままでは、デザインの方向性も定まらず、効果測定も難しくなります。

  • 例1:古くなったウェブサイトをリニューアルし、問い合わせ数を現状の1.5倍にする
  • 例2:新商品の魅力を最大限に伝えるパッケージデザインで、初年度の売上目標〇〇円を達成する
  • 例3:採用活動を強化するため、企業の理念や働く魅力を伝える採用サイトとパンフレットを作成する
  • 例4:ブランドイメージを刷新し、既存顧客のロイヤリティ向上と新規顧客層の開拓を目指す
  • 例5:展示会での注目度を高めるため、ブースデザインと配布資料を一新する

目的は、できるだけ具体的で測定可能なものにすることがポイントです。これにより、デザイン制作を依頼する際にも、デザイナーや制作会社と明確なゴールを共有でき、より的確な提案を引き出すことができます。また、投資対効果を判断する上でも重要な指標となります。

ステップ3:現状のデザイン資産を「客観的」に評価する

目的が定まったら、現在使用しているデザインツール(ロゴ、ウェブサイト、パンフレット、名刺など)が、その目的に照らして適切かどうかを客観的に評価してみましょう。

  • ロゴマーク:企業の価値観を表現できているか?古臭い印象を与えていないか?
  • ウェブサイト:情報は最新か?スマートフォンで見やすいか?訪問者が必要な情報にたどり着きやすいか?デザインはターゲット層に合っているか?
  • パンフレット・カタログ:内容は分かりやすく魅力的か?他のツールとデザインのトーンは統一されているか?
  • 名刺・封筒:企業の信頼性を損なうようなデザインになっていないか?
  • 店舗・オフィス(該当する場合):顧客や従業員にとって快適な空間か?ブランドイメージを体現できているか?

可能であれば、社外の第三者や、ターゲット顧客に近い人物に意見を聞いてみるのも有効です。自分たちでは気づかなかった課題や改善点が見えてくることがあります。この評価を通じて、優先的に改善すべきデザイン要素を特定します。

ステップ4:戦略的な「デザインパートナー」を見つける

デザインは専門性の高い分野です。自社だけで全てを賄うのが難しい場合は、信頼できる外部のパートナー(デザイナー、デザイン会社、ウェブ制作会社など)を見つけることが成功の鍵となります。

パートナー選びのポイントは、単に「見た目を作るのが上手い」だけではありません。

  • 企業の課題や目標に寄り添い、本質を理解しようとしてくれるか
  • マーケティングやブランディングの視点を持っているか
  • コミュニケーションが円滑で、こちらの意図を的確に汲み取ってくれるか
  • 制作実績が豊富で、自社の目指す方向性と合っているか
  • 費用対効果の説明が明確で、納得できるか

複数の候補と実際に会い、話を聞いて、自社の想いやビジョンをしっかりと共有できる相手を選びましょう。良いパートナーは、単なる「制作者」ではなく、共に課題解決を目指す「伴走者」となってくれるはずです。ステップ1で言語化した自社の「核」や、ステップ2で定めた「目的」を明確に伝えることが、良いパートナーシップを築く第一歩です。

ステップ5:小さく始めて、効果を測定・改善する

いきなり全てを刷新しようとせず、まずは着手しやすく、効果が見えやすい部分から始めることをお勧めします。例えば、ウェブサイトの中でも特に重要な「サービス紹介ページ」や「問い合わせページ」のデザイン改善、あるいは新しいパンフレットの作成などが考えられます。

そして、実施後は必ず効果測定を行いましょう。ウェブサイトならアクセス解析ツールを使って、ページビュー数、滞在時間、離脱率、問い合わせ数などの変化を確認します。パンフレットなら、配布後の反響や顧客からのフィードバックを収集します。

その結果をもとに、「何がうまくいき、何がうまくいかなかったのか」を分析し、次の改善策に繋げていきます。この「計画(Plan)→実行(Do)→評価(Check)→改善(Action)」のPDCAサイクルを回し続けることが、デザイン戦略を成功させる上で不可欠です。小さな成功体験を積み重ねることで、社内のデザインに対する理解や協力を得やすくなり、より大きな取り組みへと繋げていくことができます。

デザインは経営戦略そのもの

これまで見てきたように、デザインは単なる表面的な装飾ではなく、企業の価値を伝え、顧客との関係を築き、ビジネスを成長させるための重要な経営戦略です。成功している企業は、このことを深く理解し、デザインを戦略的に活用しています。

中小企業にとって、デザインへの投資は決して簡単な決断ではないかもしれません。しかし、限られたリソースの中でも、自社の核を見つめ直し、明確な目的を設定し、信頼できるパートナーと共に、小さなステップから着実に進めていくことで、必ず道は開けます。

デザインの力を信じ、戦略的に活用すること。 それは、変化の激しい時代を生き抜くための、強力な武器となるはずです。この記事が、皆様の会社にとって「売れる」設計図を描くための一助となれば幸いです。デザインを通じて、企業の新たな可能性を切り拓く一歩を、ぜひ踏み出してみてください。


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