その「綺麗」なデザイン、本当にビジネスに貢献していますか?
あなたの会社のウェブサイト、パンフレット、広告物…。どれもこれも、最新のデザインを取り入れ、見た目には洗練されていて、思わず目を引く「綺麗」な仕上がりかもしれません。しかし、その「綺麗さ」は、実際にあなたのビジネスの成果につながっているでしょうか?問い合わせは増えましたか?売上は向上しましたか?ブランドイメージは向上しましたか?もし、期待したような結果が得られていないのであれば、それはもしかすると「綺麗だけど売れない」デザインに陥っているのかもしれません。
デザインは、単なる飾りではありません。ビジネスの世界において、デザインは非常に重要な役割を担っています。顧客の注意を引き、興味を持たせ、商品やサービスへの理解を深め、最終的に購買や問い合わせといった行動を促すための強力なツールです。どんなに素晴らしい商品やサービスを持っていても、それがターゲット顧客に正しく、魅力的に伝わらなければ、ビジネスの成功には繋がりません。
高額な費用と時間をかけて制作したデザインが、単なる自己満足の産物になってしまい、ビジネス的な成果に結びつかない。これは、特に限られた経営資源で事業を営む中小零細企業の経営者様にとって、看過できない問題です。しかし、この状況は、決して避けられないものではありません。「綺麗だけど売れない」デザインを生み出してしまうのには、必ず原因があります。そして、その原因の多くは、デザインを制作する「前」の段階に潜んでいます。
デザイン制作を依頼する際に、「こんな雰囲気にしたい」「こういう色を使ってほしい」といった見た目に関する要望を伝えることはもちろん大切です。ですが、それ以上に重要なのは、そのデザインで何を達成したいのか、誰に何を伝えたいのかといった、ビジネスの根幹に関わる部分を明確にしておくことです。この「デザイン発注前の準備」こそが、「綺麗」に「売れる」デザインを実現するための鍵となります。
本日は、あなたがデザイン発注で失敗せず、投資したデザインがしっかりとビジネスの成果に繋がるようにするための、デザイン発注前に必ず確認していただきたい必須チェックリストを詳しくご紹介します。このチェックリストを通して、あなたのビジネスとデザインの関係性を深く掘り下げ、より戦略的なデザイン投資を実現するための一助となれば幸いです。
なぜ「綺麗だけど売れない」デザインが生まれるのか?
デザインが「綺麗だけど売れない」という残念な結果になるのには、様々な要因が考えられますが、その根本には、デザイン制作がビジネス目標やターゲット顧客と十分に連携していないという問題があります。具体的には、以下のような原因が挙げられます。
ビジネス目標との連携不足
デザインが単なる「綺麗なものを作る」という目的になってしまい、具体的なビジネス目標(売上増加、認知度向上、リード獲得など)と紐づいていない場合、出来上がったデザインがいくら美しくても、その目標達成に貢献することは難しいでしょう。デザインの良し悪しは、見る人の主観だけでなく、それがビジネスにどのような結果をもたらしたかで判断されるべきです。
ターゲット顧客への理解不足
デザインは、それを見る「誰か」のために存在します。その「誰か」、つまりターゲット顧客がどのような人たちで、何を考え、何に悩み、何を求めているのかを深く理解せずにデザインを進めてしまうと、独りよがりなデザインになってしまい、ターゲット顧客の心に響きません。結果として、行動を促すことができず、ビジネスの成果に繋がらないデザインになってしまいます。
デザインの役割に対する誤解
デザインを「アート」と混同しているケースも見られます。アートは表現者の内面やメッセージを自由に表現することに重きを置くことが多いですが、ビジネスデザインは異なります。ビジネスデザインは、特定の課題を解決し、ビジネス目標を達成するための「機能」です。美しさはその機能の一部ではありますが、最も重要なのは、情報伝達の正確性、使いやすさ(ユーザビリティ)、そしてターゲット顧客を desired action に導く力です。
制作会社への情報伝達不足
デザイナーは、発注者から提供される情報に基づいてデザインを構築します。あなたのビジネスの強み、顧客の特徴、抱えている課題、そしてデザインに期待する効果など、重要な情報が十分に伝わらないままでは、デザイナーも的確な提案をすることができません。発注者側が「言わなくても分かるだろう」と考えてしまったり、必要な情報を整理できていなかったりすることが、情報伝達不足の原因となります。
効果測定と改善の視点の欠如
デザインは一度作ったら終わりではなく、公開・実施した後にその効果を測定し、必要に応じて改善を重ねていくことで、そのパフォーマンスを高めることができます。最初から効果測定の方法や指標を検討しておらず、PDCAサイクルを回す意識がない場合、デザインが期待通りの成果を上げられなかったとしても、その原因を特定することも、改善の方向性を見出すことも難しくなります。
これらの原因は、互いに関連し合っています。そして、その根底にあるのは、デザイン制作を単なる「見た目を整える作業」として捉え、ビジネス戦略から切り離して考えてしまう姿勢です。デザインを、あなたのビジネスを成長させるための重要な戦略の一環と位置付け、「綺麗」であることに加えて「売れる」ための要素をしっかりとデザインに盛り込むことが、成功への道です。
次章では、これらの問題を未然に防ぎ、「綺麗だけど売れる」デザインを実現するための、デザイン発注前の具体的な必須チェックリストをご紹介します。
デザイン発注前の必須チェックリスト:戦略的なデザイン投資のために
「綺麗だけど売れない」デザインを避け、「綺麗」に「売れる」デザインを実現するためには、デザイン発注前にしっかりと準備を行い、自社のビジネスとデザインの関係性について深く思考を巡らせることが不可欠です。以下に、そのための必須チェックリストをご紹介します。これらの項目を一つずつ丁寧に取り組むことで、デザイン制作の成功確率を飛躍的に高めることができるでしょう。
1. なぜ、何のためにデザインが必要なのか?:デザインの「目的」を明確にする
全てのデザイン制作は、明確な「目的」からスタートするべきです。そのデザインを通じて、あなたは一体何を達成したいのでしょうか?ここが曖昧なままでは、どのようなデザインが最適なのかを判断することができません。
- 今回のデザイン制作で達成したい最終的なビジネス目標は何か:売上を〇〇%増加させる、特定の商品・サービスの認知度を〇〇%向上させる、新規顧客からの問い合わせを月間〇〇件獲得するなど
- その目標は、具体的か、測定可能か、達成可能か、関連性があるか、期限が設定されているか(SMART原則に沿っているか)
- 最終目標を達成するための中間的な目標(KPI)は何か:ウェブサイトへのアクセス数、特定のページへの遷移率、資料請求数、セミナー参加申し込み数など
- 現状、その目標達成においてどのような課題があるのか:なぜ今のデザインでは目標達成が難しいのか、具体的な問題を洗い出す
- これらの目標を達成するために、デザインがどのような役割を果たすことが期待されるのか
例えば、「ウェブサイトからの売上を増やしたい」という目的であれば、ただ綺麗にするだけでなく、顧客が商品を探しやすく、商品の魅力が伝わりやすく、購入プロセスがスムーズになるようなデザインが求められます。目的が「ブランドイメージの向上」であれば、信頼感や専門性、あるいは親しみやすさといった、目指すブランドイメージを的確に表現するデザインが必要になります。
デザインの目的を明確にすることは、デザインの方向性を定める上で最も重要な羅針盤となります。この羅針盤が指し示す方向が定まっていなければ、どんなに優れたデザイナーでも、あなたを正しい目的地に導くことはできません。
2. 誰に届けたいデザインなのか?:ターゲット顧客を深く理解する
デザインは、それを見る「人」、つまりあなたのターゲット顧客のために存在します。ターゲット顧客がどのような人たちなのかを深く理解せずに作られたデザインは、誰の心にも響かないものになってしまいます。
- あなたのビジネスにとって、最も重要で理想的な顧客は誰か:年齢、性別、職業、居住地、年収などの基本的な属性
- その顧客は、どのようなライフスタイルを送っているか、どのような価値観を持っているか
- その顧客が日常的に抱えている悩みや課題は何か:あなたの製品やサービスが解決できる彼らのペインポイントは何か
- その顧客は、どのような情報をどこから得ているか:インターネット検索、SNS、特定のウェブサイト、雑誌、口コミなど、情報収集チャネル
- その顧客は、購買や問い合わせといった行動を起こす前に、どのような情報を必要としているか、どのような点を重視しているか
- その顧客があなたの製品やサービスに興味を持つきっかけは何か、どのように比較検討し、何を決め手に購入に至るか:カスタマー・ジャーニー
- ターゲット顧客のインサイト(潜在的な欲求や本音、無意識の感情)は何か
ターゲット顧客を具体的にイメージするためには、ペルソナ設定が非常に有効です。単なる属性のリストアップではなく、まるで実在する人物のように、名前、顔写真(イメージ)、詳細なプロフィール、一日の過ごし方、悩み、目標、価値観などを設定することで、チーム全体でターゲット顧客像を共有しやすくなります。
ターゲット顧客への深い理解は、デザインのトーン&マナー、言葉遣い、使用する写真やイラスト、コンテンツの内容など、あらゆる要素に影響を与えます。顧客に「これは自分のためのデザインだ」と感じてもらうことができれば、彼らは自然とデザインに引きつけられ、メッセージを受け入れやすくなります。
3. どのような課題を解決したいのか?:デザインに期待する「機能」を明確にする
デザインは美しいだけでなく、ビジネス上の課題を解決するための「機能」を持っていなければなりません。現在のデザインやプロモーションにおいて、どのような課題を感じており、デザインの力でそれをどのように解決したいと考えているのかを具体的にしましょう。
- 現在のウェブサイトは使いにくいと感じるか:どこが、どのように使いにくいのか(例:目的の情報が見つけにくい、問い合わせフォームまでたどり着きにくいなど)
- 提供している情報がターゲット顧客に分かりにくく伝わっていると感じるか:どの情報が、どのように分かりにくいのか
- 競合他社のデザインと比較して、自社のデザインが見劣りしていると感じるか:具体的にどの点が見劣りしていると感じるのか
- ブランドイメージがターゲット顧客に正しく伝わっていないと感じるか:どのようなイメージで伝わっているのか、本来伝えたいイメージはどのようなものか
- 特定の製品やサービスの魅力が顧客に十分に伝わっていないと感じるか:魅力が伝わらない原因は何だと考えるか
- デザインの刷新によって、顧客のどのような行動を変えたいか:ウェブサイトの滞在時間を長くしたい、特定のページへのクリック率を上げたい、資料請求率を上げたいなど
デザインに期待する「機能」を明確にすることで、デザイナーは単なる見た目の変更にとどまらず、課題解決に繋がるデザイン提案をすることができます。例えば、「問い合わせフォームへの到達率が低い」という課題があれば、問い合わせボタンの設置場所やデザイン、フォームまでの導線を改善するといった機能的なアプローチがデザインに求められます。
デザインはあくまで手段であり、目的はビジネス上の課題解決です。この点をしっかりと理解し、デザインに期待する機能を明確にすることが、「綺麗だけど売れない」デザインから脱却するための重要なステップとなります。
4. どのような情報コンテンツを提供するか?:メッセージと情報の整理
デザインは、あなたが伝えたいメッセージや情報コンテンツをターゲット顧客に届けるための「器」です。どんなに素晴らしい器でも、中身がなければ意味がありません。デザインに何を盛り込み、どのように伝えるかを事前に整理することが重要です。
- デザインを通じて、ターゲット顧客に最も強く伝えたい主要なメッセージは何か:あなたのビジネスの核心、最も重要な価値提供
- その主要なメッセージを裏付けるための具体的な情報や証拠は何か:商品の機能、サービスの具体的なメリット、お客様の声、導入事例、受賞歴、専門家の推薦など
- ターゲット顧客が購買や問い合わせを検討する際に必要とする情報は何か:価格、仕様、保証、サポート体制、会社の信頼性に関する情報など
- 情報の優先順位付けはできているか:最も重要な情報、次に重要な情報、補足情報など
- 情報を分かりやすく、魅力的に伝えるための構成案やストーリーはあるか:ウェブサイトのナビゲーション構造、各ページのコンテンツ構成、パンフレットの章立てなど
- 使用する文章のトーン&マナーは、ターゲット顧客やブランドイメージに合っているか
- デザインに使用する写真、イラスト、動画などの素材は準備できているか、またはどのような素材が必要かリストアップできているか:素材の質はメッセージの伝わりやすさに大きく影響します
情報コンテンツの準備は、デザイン制作と並行して進めることも多いですが、主要なメッセージと必要な情報がある程度固まっていると、デザイナーはデザインの骨組みを構築しやすくなります。特に、ウェブサイト全体の情報構造を示すサイトマップや、各ページのレイアウトのたたき台となるワイヤーフレームを検討しておくと、その後のデザインプロセスがスムーズに進みます。
情報はただ羅列するのではなく、ターゲット顧客にとって理解しやすく、心に響くように構成し、表現することが重要です。専門用語を避け、具体的な事例や数字を交え、共感を呼ぶストーリーを取り入れるといった工夫が、情報の伝わりやすさを格段に向上させます。
5. 競合のデザインはどうなっているか?:差別化のポイントを探る
あなたのビジネスのターゲット顧客は、あなたの会社だけでなく、競合他社の情報も目にしている可能性があります。競合のデザインを分析することは、自社のデザインの立ち位置を理解し、差別化のポイントを見つける上で非常に有効です。
- 主な競合他社はどこか:ターゲット顧客の視点で、比較検討される可能性のある競合をリストアップする
- 競合各社のデザインはどのような印象か:全体的なトーン&マナー、使用している色、フォント、写真やイラストの雰囲気など
- 競合のデザインの良い点は何か:ターゲット顧客に響いていると考えられる要素、参考にしたいと感じる点
- 競合のデザインの改善点、悪い点は何か:ターゲット顧客視点で分かりにくい点、使いにくい点、魅力が伝わりにくい点など
- 競合はどのようなメッセージを、どのようなデザインで伝えようとしているか:彼らがターゲットとしている顧客層や訴求ポイントをデザインから推測する
- 競合のデザインと比較して、自社のデザインで差別化できるポイントは何か:見た目だけでなく、情報構造や顧客体験も含めて考える
競合のデザイン分析は、単なる「真似」のためではありません。競合がターゲット顧客にどのようにアプローチしているのかを理解し、自社がどのようにすれば競合の中で埋もれずに、ターゲット顧客に選ばれる存在になれるのかを考えるための重要なプロセスです。
競合と全く同じようなデザインでは、ターゲット顧客に「どこかで見たことある」と思われてしまい、印象に残りません。競合のデザインを参考にしつつも、自社のユニークな価値や個性を際立たせるようなデザインを目指しましょう。ただし、差別化にこだわりすぎるあまり、ターゲット顧客にとって分かりにくかったり、使いにくかったりするデザインにならないよう注意が必要です。最も重要なのは、ターゲット顧客にとっての「魅力」と「分かりやすさ」のバランスです。
6. どのような「売り」を最も強調するか?:訴求ポイントの明確化
あなたのビジネスには、多くの魅力的な「売り」があるかもしれません。しかし、全ての「売り」を同じ強さでアピールしようとすると、メッセージが分散してしまい、結局何も伝わらないということになりかねません。ターゲット顧客にとって最も魅力的で、かつ競合との差別化に繋がる核となる「訴求ポイント」を明確にし、そこに焦点を当てたデザインにすることが重要です。
- あなたの製品やサービスの、ターゲット顧客にとっての最大のメリットやベネフィットは何か:顧客があなたの製品やサービスを利用することで得られる、具体的な良い結果や感情
- 競合には真似できない、自社独自の強みや提供価値は何か:ユニーク・セリング・プロポジション(USP)
- ターゲット顧客の最も深い悩みや課題を解決できる、最も強力なアプローチは何か
- デザインを通じて、顧客の心に最も強く残したいメッセージやイメージは何か
- 複数の訴求ポイントがある場合、最も伝えたい主要な訴求ポイントをいくつかに絞り込めるか(例:3つ程度)
- それぞれの訴求ポイントを裏付ける具体的な根拠や事例はあるか
訴求ポイントを明確にする際は、単なる「特徴(Feature)」ではなく、「顧客にとってのメリット・ベネフィット(Benefit)」に焦点を当てることが重要です。例えば、「〇〇という新機能を搭載しています」という特徴よりも、「この新機能により、作業時間を半分に短縮できます」というベネフィットの方が、顧客にとっては魅力的です。
絞り込んだ訴求ポイントは、デザインのキャッチコピー、見出し、ボディコピー、そして主要なビジュアル要素に強く反映されます。デザイナーに訴求ポイントを明確に伝えることで、彼らはそのポイントがターゲット顧客の目に留まりやすく、心に響くようなデザインを提案しやすくなります。
7. デザインの「雰囲気」に関する要望は?:トンマナや参考事例の整理
デザインの見た目に関する要望も、発注前に整理しておきましょう。ただし、これはあくまで目標達成のための手段であり、目的そのものではないことを忘れてはなりません。感覚的なイメージだけでなく、なぜその雰囲気にしたいのか、それがターゲット顧客にどのような影響を与えると考えるのかといった理由も添えると、より効果的なコミュニケーションができます。
- デザイン全体を通して表現したい、希望するトーン&マナーは何か:例:信頼感、専門性、親しみやすさ、先進的、ナチュラル、ポップなど、具体的なキーワードで表現する
- コーポレートカラーやブランドイメージとして使用したい主要な色、そして補助的な色は何か:それぞれの色に込めた意味や、ターゲット顧客に与えたい印象
- デザインに使用したいフォントのイメージはどのようなものか:例:堅実なゴシック体、柔らかい丸ゴシック、上品な明朝体、個性的なデザインフォントなど(具体的なフォント名でなくても構いません)
- デザインの参考にしたい既存の制作物(ウェブサイト、パンフレット、広告など)は何か:自社の過去の制作物、競合他社のもの、全く別の業界のものでも構いません
- 参考事例のどのような点が良いと感じるのか、具体的に説明できるか:色使い、レイアウト、写真の雰囲気、情報の見せ方など
- 逆に、これは避けたいというデザインの雰囲気や要素はあるか:理由も添える
- デザインに使用したい写真、イラスト、動画などの素材に関するイメージはどのようなものか:リアルな写真、温かみのあるイラスト、スタイリッシュな動画など
これらの要望を具体的に伝えることで、デザイナーはあなたの頭の中にあるイメージを掴みやすくなり、デザインの方向性を定めやすくなります。ただし、プロのデザイナーは、あなたの要望と同時に、設定した目標、ターゲット顧客、訴求ポイントなどを総合的に考慮し、最適なデザインを提案してくれます。要望の中には、ビジネス目標達成のために最適ではないとデザイナーが判断する場合もあるかもしれません。その際は、デザイナーの提案の意図をよく聞き、なぜそれが最適なのか、逆にあなたの要望がなぜ最適ではないのか、ビジネス的な視点から話し合い、最終的な方向性を決定しましょう。
デザインの「綺麗さ」は、あくまでターゲット顧客にメッセージを効果的に伝えるための手段です。あなたの個人的な好みだけでなく、ターゲット顧客にどのように見られたいか、どのような印象を与えたいかという視点を持って、デザインの雰囲気に関する要望を整理することが重要です。
8. デザインの効果をどう測るか?:効果測定の方法を検討する
デザインは、作って終わりではありません。それが実際にビジネス目標にどの程度貢献しているのかを測定し、必要に応じて改善を重ねていくことで、デザインの投資対効果を最大化することができます。デザインを発注する前に、どのように効果を測定するのか、どのような指標を見るのかを具体的に検討しておくことが非常に重要です。
- 設定した目標(KGI、KPI)を測定するための具体的な指標は何か:ウェブサイトであればアクセス数(PV/UU)、滞在時間、直帰率、コンバージョン率(CVR)、特定のボタンのクリック率(CTR)、問い合わせ数、資料請求数、ecサイトであれば売上、顧客単価、広告であればクリック率、コンバージョン率、顧客獲得単価(CPA)など
- これらの指標を測定するために、どのようなツールや仕組みを利用するか:例:Google Analytics、特定のランディングページへのアクセス解析、問い合わせフォームの送信完了ページの計測、プロモーションコードの発行など
- 効果測定のために、デザイン制作においてデザイナーに協力してもらう必要があることは何か:例:特定のページに計測タグを設置する、A/Bテストを行うためのデザインバリエーションを作成してもらうなど
- 測定したデータを、どのくらいの頻度で確認し、分析するか
- 効果測定の結果、デザインが期待通りの成果を上げていない場合、どのように原因を分析し、どのような改善策を検討するか
- デザインのA/Bテストや多変量テストは可能か:複数のデザインパターンを用意し、どちらがより効果的か検証する
効果測定の方法を事前に検討し、デザイナーとも共有しておくことで、測定しやすいようにデザイン構造を設計してもらったり、計測に必要な要素をデザインに組み込んでもらうことができます。例えば、ウェブサイトのデザインであれば、コンバージョンポイント(問い合わせボタンや購入ボタンなど)を分かりやすく配置したり、特定のページへの導線を明確にしたりといった配慮をデザイン段階から盛り込むことができます。
デザインの効果測定は、単に数字を追うことだけが目的ではありません。なぜその数字になったのか、ターゲット顧客はデザインのどの部分に反応し、どの部分で離脱したのかといったことを分析し、デザインの課題点や改善点を見つけ出すことが重要です。そして、その分析結果を元にデザインを改善していくというPDCAサイクルを回すことが、「売れ続ける」デザインを育てていくためには不可欠です。デザインは一度作ったら終わりではなく、常に進化させていくものだという意識を持ちましょう。
9. 予算とスケジュールはどのくらいか?:現実的な計画の確認
デザイン制作には、当然ながら予算と納期が伴います。現実的な予算とスケジュールを事前に明確にし、制作会社やデザイナーと共有することは、プロジェクトを円滑に進め、期待通りの成果を期限内に得るために非常に重要です。
- 今回のデザイン制作にかけられる具体的な予算はいくらか:単なるデザイン費用だけでなく、必要であれば写真撮影費用、ライティング費用なども考慮に入れる
- 設定した目標を達成するために、この予算でどこまで実現可能か:予算と目標のバランスを考慮し、必要であれば優先順位を調整する
- デザインが必要となる具体的な期日(ウェブサイト公開日、イベント開催日、広告掲載開始日など)はいつか
- デザイン制作期間として、どのくらいの期間を想定しているか:企画、デザイン、修正、納品までの一連のプロセスを考慮する
- デザインの確認やフィードバックに、社内でどの程度の時間を確保できるか:確認・フィードバックの遅延は、全体のスケジュールに大きく影響します
- 予算やスケジュールが厳しい場合、どこを調整することが可能か:デザインの範囲を限定する、制作期間を延長するなど
- 予期せぬ事態が発生した場合の対応について、事前に制作会社と話し合っておくべきことはあるか
予算が潤沢にあれば、理想的なデザインを追求しやすいかもしれませんが、多くの中小零細企業では予算に限りがあるでしょう。限られた予算の中で最大限の効果を得るためには、設定した目標の優先順位を明確にし、本当に必要なデザイン要素や機能を見極める必要があります。安易に予算を削ることは、デザインの質を低下させ、結果的に「綺麗だけど売れない」デザインに繋がるリスクを高める可能性があります。
また、スケジュールに関しても、デザイン制作には一定の工程と時間が必要です。余裕を持ったスケジュールを組み、デザイナーとの密なコミュニケーションを確保することで、手戻りを減らし、質の高いデザインを生み出すことができます。無理な納期を求めることは、デザイナーに過度な負担をかけ、デザインのクオリティに影響を与える可能性があります。現実的な計画を立て、それを制作会社やデザイナーと共有し、 mutually agreeable schedule を設定することが重要です。
10. 制作会社/デザイナーとのコミュニケーション計画:円滑な連携体制の構築
デザイン制作は、発注者と制作会社、あるいはデザイナーとの共同作業です。お互いの専門性を尊重し、円滑なコミュニケーションを取ることが、プロジェクトを成功に導くための重要な要素です。発注前に、コミュニケーションの進め方について計画しておきましょう。
- 上記1〜9で整理した情報を、制作会社やデザイナーにどのように伝えるか:オリエンテーションの形式(対面、オンライン)、オリエンテーション資料の準備、共有すべき情報の範囲など
- デザインの進捗報告や確認のための定例ミーティングは必要か:頻度、時間、参加者、形式(対面、オンライン)
- デザイン案が提出された際、どのように確認し、フィードバックを伝えるか:確認期間、フィードバックの方法(口頭、文書、ツール)、フィードバックを行う担当者
- フィードバックは、感情論ではなく、事前に整理した目標やターゲット顧客の視点に基づいた具体的な内容になっているか
- 不明点や懸念点が生じた場合、誰に、どのような方法で連絡するか
- 緊急時の連絡手段や対応フローはどのようになっているか
- デザインの方向性や内容について、意見が分かれた場合の調整方法や最終的な意思決定者は誰か
- プロジェクトの途中での仕様変更や追加依頼が発生した場合の対応フローや費用の考え方
特に、デザインへのフィードバックは、デザイナーとのコミュニケーションにおいて最も重要な部分の一つです。「なんとなく好きじゃない」「もっとこうしたい」といった曖昧なフィードバックでは、デザイナーは何をどう改善すれば良いのか判断に困ってしまいます。事前に整理した「ターゲット顧客は〇〇だから、このデザインの△△の部分が響かないと思う」「この訴求ポイントを最も伝えたいから、□□を強調してほしい」といった具体的な理由に基づいたフィードバックを心がけましょう。
また、デザイナーはデザインのプロフェッショナルです。彼らの提案には、あなたの気づかないターゲット顧客の視点や、デザインの専門知識に基づいた理由があるはずです。提案されたデザインの意図をよく理解しようと努め、疑問点や懸念点があれば率直に質問し、説明を求めましょう。お互いの専門性を尊重し、信頼関係を築くことが、プロジェクトを円滑に進め、より良い成果物を生み出すための鍵となります。
チェックリストを「使う」ということ:デザイン投資を成功させるためのマインドセット
ご紹介した必須チェックリストは、単に形式的に項目を埋めるためのものではありません。これらの項目と向き合い、深く思考を巡らせ、あなたのビジネスにとって最適なデザインとは何かを見つけ出すための「思考ツール」として活用していただきたいのです。
このチェックリストに取り組む過程で、あなたのビジネスの強みや弱み、ターゲット顧客の意外な側面、そしてデザインに期待する真の役割が明確になってくるでしょう。また、社内の関係者とこれらの項目について話し合うことで、チーム間での認識のズレを解消し、デザイン制作に対する共通認識を醸成することができます。これは、デザインプロジェクトを成功させる上で非常に強力な推進力となります。
可能であれば、このチェックリストの内容をベースに、「デザインオリエンテーション」のための資料を作成することを強くお勧めします。デザインの目的、ターゲット顧客像、伝えたいメッセージ、競合情報、希望するトーン&マナー、予算、スケジュール、そしてデザインによって解決したい課題などを網羅的にまとめた資料をデザイナーに提供することで、デザイナーはあなたのビジネスに対する理解を深め、より的確で戦略的なデザイン提案をすることができます。
デザイン発注は、単なる「発注作業」ではなく、あなたのビジネスの未来を左右する重要な「投資」です。この投資を成功させるためには、発注者であるあなた自身が、デザインに何を求め、誰に何を届けたいのかを明確にする責任があります。デザイナーは、あなたのビジョンを実現するためのパートナーであり、羅針盤を持たない船を導くことはできません。
デザイナーとの二人三脚:信頼と共同創造のプロセス
デザイン制作は、発注者とデザイナーが互いの専門性を尊重し、協力して一つの目標に向かって進む「共同創造のプロセス」です。デザイナーを単なる作業者としてではなく、あなたのビジネスの課題をデザインの力で解決してくれる心強いパートナーとして捉えましょう。
あなたのビジネスの深い理解と、ターゲット顧客に関する生きた情報は、あなただけが持っている貴重な財産です。これらの情報を惜しみなくデザイナーと共有してください。あなたのビジネスに対する情熱や、製品・サービスへの想いを伝えることも、デザイナーのモチベーションを高め、より良いアイデアを生み出すことに繋がります。
また、デザインのプロセスにおいては、様々な意見交換や提案が行われます。デザイナーからの提案に対しては、単に見た目の好みだけでなく、「なぜそのデザインがターゲット顧客に響くと考えられるのか」「それは設定した目標達成にどのように貢献するのか」といったビジネス的な視点から質問し、検討することが重要です。お互いに建設的なフィードバックを行い、より良いデザインを共に創り上げていくという姿勢が大切です。信頼関係に基づいたオープンなコミュニケーションは、デザイン制作の成功確率を格段に高めます。
デザインは公開してからが本番:効果測定と継続的な改善
デザインが完成し、世の中に公開されたら、それですべてが終わりではありません。むしろ、ここからがデザインが本当に機能しているのかを検証し、ビジネスに貢献させていくための本番です。
事前に計画した方法で、デザインの効果を測定しましょう。ウェブサイトであればアクセス解析ツールを使ってユーザーの行動を分析したり、問い合わせ数や売上データを追跡したりします。広告クリエイティブであれば、クリック率やコンバージョン率を確認します。デザインが設定した目標に対してどの程度貢献しているのかを、具体的な数字で把握することが重要です。
もし、期待したような成果が出ていないのであれば、その原因を分析し、デザインの改善策を検討します。デザインの一部を修正する、コンテンツの表現を変える、導線を改善するといったA/Bテストを行うなど、様々なアプローチが考えられます。そして、改善策を実行した後は、その効果を再び測定し、さらなる改善点を見つけ出します。
この効果測定と改善のサイクル(PDCA)を継続的に回すことで、デザインは常に最新の状態に保たれ、変化する市場環境や顧客のニーズに柔軟に対応できるようになります。一度完成したデザインに満足せず、常に「もっとビジネスの成果に繋げるためにはどうすれば良いか」という視点を持ってデザインを育てていくことが、「売れ続ける」デザインを実現するためには不可欠です。デザインは生き物のように変化させていくことで、その価値を最大化することができます。
「綺麗」に「売れる」デザインは、発注者自身の「思考の整理」から始まる
「綺麗だけど売れない」というデザインの課題は、多くの企業が直面する問題です。しかし、それは適切なプロセスと準備を踏むことで、十分に回避できるものです。
本記事でご紹介したデザイン発注前の必須チェックリストは、あなたのビジネスとデザインの関係性を深く掘り下げ、単なる「見た目の要望」を超えた、戦略的なデザイン投資を行うための思考フレームワークです。このチェックリストに真摯に取り組むことで、あなたはデザイナーに「どんなデザインを作ってほしいか」だけでなく、「そのデザインで何を達成したいか」「誰にどのように響かせたいか」といった、デザインの本質に関わる重要な情報を明確に伝えることができるようになります。
デザインは、あなたのビジネスの成長を加速させる強力なエンジンとなり得ます。しかし、そのエンジンを最大限に活かすためには、まずエンジンを搭載する「車体」、つまりあなたのビジネスの目標、ターゲット顧客、そして解決したい課題を明確にする必要があります。
「綺麗」で「売れる」デザインを実現するための第一歩は、実はデザインを発注する側である、あなた自身の「思考の整理」にあります。このチェックリストが、その整理のお手伝いとなり、あなたのデザイン投資が確かな成果に繋がることを心から願っています。
信頼できるデザイナーをパートナーとして見つけ、本記事でご紹介したチェックリストを共通言語として、ぜひ「綺麗」で「売れる」デザインを共に創り上げてください。あなたのビジネスのさらなる発展を応援しています。
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