終わらない修正依頼、その原因は?

「なんか違うんだよなあ…」「もう少し、こう、シュッとした感じで…」
デザイン制作を進める中で、このような曖昧なフィードバックを受け、何度も修正を繰り返した経験はありませんか?時間も労力もかけたのに、なかなか完成形が見えず、担当者もデザイナーも疲弊してしまう…。こうした「デザイン修正ループ」は、多くの企業が抱える悩みの種です。

特に、中小零細企業の経営者様やご担当者様にとっては、限られたリソースの中でデザイン制作を進める必要があり、修正の長期化はコスト増や機会損失に直結する深刻な問題です。

では、なぜこのような修正ループに陥ってしまうのでしょうか?
その最大の原因は、多くの場合「発注者と制作者の間での完成イメージのズレ」にあります。頭の中に描いている理想の形が、双方で異なっているために、何度修正しても「これだ!」という着地点にたどり着けないのです。

逆に言えば、制作初期段階で「完成イメージ」をしっかりと共有し、認識を合わせておくことができれば、無駄な修正を大幅に減らし、スムーズかつ効率的にプロジェクトを進めることができます。

本記事では、デザイン修正ループという悪夢から脱却するための鍵となる「完成イメージ共有」の極意について、具体的な方法や考え方を詳しく解説していきます。この記事が、貴社のデザイン制作をより円滑で実りあるものにするための一助となれば幸いです。

なぜ「完成イメージの共有」がそこまで重要なのか?

完成イメージの共有がなぜ重要なのか、もう少し掘り下げてみましょう。単に修正が減るというだけでなく、ビジネス全体に様々な好影響をもたらします。

1. 時間とコストの浪費を防ぐ

デザインの修正には、当然ながら時間とコストがかかります。デザイナーの作業時間だけでなく、担当者様の確認やフィードバックの時間も必要です。修正が重なれば重なるほど、これらの時間は雪だるま式に増えていきます。
初期段階でイメージを固めておくことで、後工程での大幅な手戻りを防ぎ、プロジェクト全体の時間とコストを最適化できます。これは、予算や納期がシビアな中小零細企業にとって、極めて重要なポイントです。

2. 関係者のモチベーション維持

終わりの見えない修正作業は、デザイナーだけでなく、発注側の担当者にとっても精神的な負担となります。「また修正か…」「いつになったら終わるんだ…」といったネガティブな感情は、プロジェクト全体の士気を低下させかねません。
スムーズな進行は、関係者全員のモチベーションを高く保ち、より良い成果を生み出す原動力となります。

3. より質の高い成果物の実現

修正指示が曖昧だったり、二転三転したりすると、デザイナーは何を信じて良いか分からなくなります。結果として、当たり障りのない、あるいは方向性の定まらないデザインになってしまう可能性も否定できません。
明確な完成イメージがあれば、デザイナーは迷いなく、そのゴールに向かって専門性を最大限に発揮できます。これにより、当初の目的を達成する、より質の高いデザインが期待できるのです。

4. 良好なパートナーシップの構築

デザイン制作は、単なる作業依頼ではありません。発注者と制作者が協力し、共通の目標に向かって進むパートナーシップです。修正ループは、時として「言った・言わない」「認識が違う」といった不信感を生み、良好な関係を損なう原因にもなり得ます。
丁寧なイメージ共有のプロセスは、相互理解を深め、信頼関係を築くための重要なコミュニケーションの機会となります。長期的に良好な関係を築ければ、今後のプロジェクトもスムーズに進むでしょう。

このように、完成イメージの共有は、単なる作業効率化に留まらず、コスト削減、品質向上、モチベーション維持、そして良好な関係構築にまで繋がる、デザイン制作における非常に重要なプロセスなのです。

修正ループを防ぐ!「完成イメージ共有」7つの極意

では、具体的にどのようにして完成イメージを共有していけば良いのでしょうか?ここでは、デザイン修正ループを防ぐための「完成イメージ共有」の7つの極意をご紹介します。

極意1:徹底的なヒアリングで「目的」と「課題」を明確にする

デザイン制作は、単に見た目を良くすることだけが目的ではありません。そのデザインを通じて何を達成したいのか、どんな課題を解決したいのかという「目的」と「課題」が根幹にあるはずです。

  • 今回の制作物の目的は何か?(例:売上向上、認知度アップ、問い合わせ増加、ブランディング強化など)
  • 誰に、何を伝えたいのか?(ターゲット顧客像)
  • 現状の課題は何か?(例:デザインが古い、情報が伝わりにくい、競合に見劣りする)
  • デザインによって、ターゲットにどうなってほしいか?(具体的な行動喚起)

これらの本質的な問いに対する答えを、発注者と制レーターが共有することが、イメージ共有の第一歩です。目的が曖昧なままでは、どんなに素晴らしいデザインも的外れなものになってしまいます。デザイナーは、ただ要望を聞くだけでなく、時には質問を重ね、深掘りすることで、依頼者自身も気づいていない本質的な目的や課題を引き出す役割を担います。

極意2:「好み」だけでなく「戦略」に基づいた言語化を

「かっこいい感じで」「おしゃれな雰囲気に」「信頼感のあるデザイン」といった抽象的な表現は、人によって解釈が大きく異なります。こうした言葉だけで進めてしまうと、後々「思っていたのと違う」という事態を招きがちです。
大切なのは、デザインの方向性を具体的な言葉で表現し、共有することです。

  • かっこいい:具体的に、どんな要素が「かっこいい」と感じるのか?(例:シャープな線、モノトーンの色使い、余白を活かしたレイアウト)
  • おしゃれ:どんなテイストの「おしゃれ」か?(例:ミニマル、ナチュラル、ポップ、レトロ)
  • 信頼感:どのような表現が「信頼感」に繋がるか?(例:誠実さを感じる青系の色、落ち着いたフォント、情報の整理されたレイアウト)

この時、単なる「好み」だけでなく、極意1で明確にした「目的」や「ターゲット」を踏まえ、「なぜそのデザイン要素が必要なのか」という戦略的な視点を持つことが重要です。「ターゲット層には、この色味が響くはずだ」「このレイアウトなら、伝えたい情報が効果的に伝わる」といった、根拠に基づいた言語化を行うことで、より精度の高いイメージ共有が可能になります。

極意3:参考イメージは「好き・嫌い」とその「理由」をセットで

言葉だけでは伝えきれないニュアンスを補うために、参考となるデザイン(Webサイト、パンフレット、ロゴなど)を共有することは非常に有効です。ただし、単に「これ、いいですね」と見せるだけでは不十分です。

  • どの部分が「良い」と感じたのか?(例:色使い、写真の雰囲気、レイアウト、フォント、全体的なトーン)
  • なぜ「良い」と感じたのか?(例:自社のイメージに合っている、ターゲットに響きそう、情報が分かりやすい)
  • 逆に「これは避けたい」というイメージはあるか?その理由は?

「好き・嫌い」だけでなく、その「理由」まで具体的に伝えることで、デザイナーは意図を正確に汲み取り、デザインに反映させることができます。複数の参考イメージを提示する場合は、それぞれの良い点・悪い点を明確に伝えることが重要です。また、競合他社のデザインを分析し、自社の立ち位置や差別化ポイントを共有することも有効な手段です。

極意4:ラフ案・ワイヤーフレームで「骨格」を早期に確認

いきなり完成形に近いデザイン案を提示するのではなく、まずは手書きのラフスケッチや、構成要素の配置を示すワイヤーフレーム(Webサイトの場合)といった「骨格」の部分で認識を合わせることが重要です。
この段階では、色や細かい装飾は一旦置いておき、情報の優先順位やレイアウト、コンテンツの流れといった構造的な部分に焦点を当てて確認します。
「この情報をもっと目立たせたい」「このボタンはもっと押しやすい位置に」といった意見交換を早期に行うことで、後工程での大幅な修正を防ぐことができます。特にWebサイトのように情報量が多い制作物では、ワイヤーフレームによる骨格の確認は必須と言えるでしょう。

極意5:プロトタイプで「動き」や「体験」をシミュレーション

Webサイトやアプリなど、インタラクション(操作や動き)が伴うデザインの場合、静的なデザイン案だけでは実際の使用感を掴むのが難しいことがあります。そのような場合に有効なのが「プロトタイプ」の活用です。
プロトタイプは、完成品に近い動きや画面遷移をシミュレーションできる試作品です。実際にクリックしたり、スクロールしたりすることで、デザインの見た目だけでなく、使いやすさ(ユーザビリティ)や操作感(ユーザーエクスペリエンス)を確認することができます。
「ボタンをクリックしたら、この画面に遷移してほしい」「ここのアニメーションは、もう少し滑らかにしたい」といった具体的なフィードバックが可能になり、よりユーザー視点に立った、質の高いデザインを実現できます。

極意6:段階的な確認とフィードバックで「ズレ」を早期に発見・修正

制作プロセス全体をいくつかの段階(マイルストーン)に区切り、各段階でこまめに進捗を確認し、フィードバックを行うことも重要です。

  • 例:ヒアリング → 方向性提案 → ラフ・ワイヤーフレーム確認 → デザイン案(主要ページ)確認 → 全体デザイン確認 → コーディング・実装 → 最終確認

一度に全てを確認しようとすると、見落としが生じたり、フィードバックが曖昧になったりしがちです。段階的に確認することで、論点を絞り、具体的なフィードバックをしやすくなります。また、もし認識のズレが生じていたとしても、早い段階で発見し、軌道修正することが可能です。各段階での承認をもって次に進めるルールを設けることで、後からの「ちゃぶ台返し」を防ぐ効果も期待できます。

極意7:密なコミュニケーションで「認識の壁」を取り払う

結局のところ、完成イメージの共有は「コミュニケーション」そのものです。どんなに優れた手法を用いても、コミュニケーションが不足していたり、一方通行だったりしては、認識のズレは埋まりません。

  • 定期的な打ち合わせの設定:進捗報告や疑問点の解消
  • 迅速なレスポンス:不明点や確認事項への素早い対応
  • オープンな対話:遠慮せずに意見や懸念を伝え合える関係性
  • 議事録の作成・共有:決定事項や確認事項を記録に残す

メールやチャットだけでなく、時には直接対話(対面またはオンライン)の機会を設けることも、微妙なニュアンスの共有や、信頼関係の構築に繋がります。デザイナーからの質問や提案に対して、発注者側も積極的に考え、意見を述べることが、より良いコラボレーションを生み出します。「専門家にお任せ」ではなく、共に創り上げていくという意識を持つことが大切です。

これらの7つの極意を意識し、実践することで、発注者と制作者の間の認識のズレは最小限に抑えられ、忌まわしいデザイン修正ループから解放されるはずです。

発注者側(クライアント)ができること:デザイナーとのより良い協業のために

完成イメージの共有は、デザイナーだけの努力で成り立つものではありません。発注者であるクライアント企業側の協力があってこそ、その効果は最大化されます。ここでは、デザイナーとのより良い協業のために、発注者側ができること、意識すべき点をまとめました。

1. 依頼前の情報整理:デザイナーに「思考の地図」を渡す

デザイナーに依頼する前に、可能な範囲で情報を整理しておくことが、スムーズなスタートを切るための鍵となります。

  • 制作の目的・目標:何を達成したいのか?具体的な数値目標は?
  • ターゲット顧客:誰に向けたデザインか?年齢、性別、興味、課題など
  • 現状の課題:デザインで解決したい問題点は?
  • 競合情報:競合他社のデザインやウェブサイト、その長所・短所
  • 提供できる素材:ロゴデータ、写真、文章原稿など
  • 希望納期・予算感

これらの情報が事前に整理されていると、デザイナーはプロジェクトの全体像を素早く把握し、より的確なヒアリングや提案を行うことができます。完璧である必要はありませんが、「思考の地図」として共有できるものがあると、コミュニケーションの質が格段に向上します。

2. 要望は「具体的に」「理由」を添えて伝える努力を

前述の通り、「かっこよく」「おしゃれに」といった抽象的な言葉だけでは、デザイナーは意図を汲み取ることが困難です。
できる限り具体的な言葉で伝える努力をしましょう。参考イメージを示す際には、どこがどのように良いのか、なぜそう思うのか、理由を添えることが重要です。もし上手く言語化できない場合は、「なぜそうしたいのか」「それによって何を実現したいのか」という背景や目的を伝えるだけでも、デザイナーにとっては大きなヒントになります。

3. フィードバックは「建設的」に:ダメ出しではなく改善提案を

デザイン案に対してフィードバックを行う際は、単なる「ダメ出し」にならないよう注意が必要です。「これはダメ」「気に入らない」という否定的な意見だけでは、デザイナーはどう改善すれば良いか分かりません。
「なぜそう思うのか」「代わりにどうなってほしいのか」という具体的な理由や改善提案を添えるように心がけましょう。「ここの色は、もう少し落ち着いたトーンの方が信頼感が出ると思う」「この部分は、もっと情報を目立たせたいので、レイアウトを変えられないか」といった建設的なフィードバックは、デザイナーの思考を刺激し、より良いデザインへと導きます。

4. 「決定」には責任を持つ:ちゃぶ台返しは避ける

段階的な確認プロセスにおいて、一度「これでOK」と承認した内容を、後から覆す「ちゃぶ台返し」は、プロジェクトの遅延やコスト増、そして信頼関係の損失に繋がります。もちろん、軽微な修正はやむを得ない場合もありますが、根本的な方向性を覆すような変更は、極力避けるべきです。
各段階での確認を慎重に行い、承認する際には「これで進めて問題ないか」を社内関係者ともよく確認し、責任を持って判断することが求められます。

5. デザイナーを「信頼」し「専門性」を尊重する

デザイナーは、デザインの専門家です。長年の経験や知識に基づき、美的感覚だけでなく、マーケティング視点やユーザビリティ、技術的な制約なども考慮して提案を行っています。
もちろん、発注者の意向は最大限尊重されるべきですが、時にはデザイナーの専門的な意見に耳を傾け、その提案意図を理解しようと努める姿勢も大切です。「なぜこのデザインなのか?」と疑問に思ったら、遠慮なく質問してみましょう。納得のいく説明が得られるかもしれませんし、新たな気づきがあるかもしれません。相互理解と尊重の上に成り立つパートナーシップが、最良の成果を生み出します。

これらの点を意識し、デザイナーと協力してプロジェクトを進めることで、完成イメージの共有はよりスムーズになり、満足度の高い成果物を得られる可能性が高まります。

デザイナー選びも重要:イメージ共有を重視するパートナーを見つける

どんなに発注者側がイメージ共有に努めても、受け手であるデザイナー側のスキルや姿勢が伴わなければ、うまくいきません。修正ループを防ぐためには、完成イメージの共有プロセスを重視し、丁寧に対応してくれるデザイナーや制作会社を選ぶことも非常に重要です。

ヒアリング力:表面的な要望だけでなく本質を引き出せるか

優れたデザイナーは、ただ依頼された通りに作るだけでなく、対話を通じてクライアントのビジネスや課題、真の目的を深く理解しようと努めます。質問が的確か、課題の本質を探ろうとしているか、といった点に注目しましょう。表面的な要望だけでなく、「なぜそれが必要なのか?」を問いかけ、より本質的な解決策を一緒に考えてくれるデザイナーは、頼りになるパートナーとなり得ます。

言語化・視覚化能力:抽象的なイメージを形にする力

クライアントの曖昧な要望や頭の中にあるイメージを、具体的な言葉やデザイン案に落とし込む能力も重要です。ヒアリング内容を整理し、「つまり、こういう方向性ですね」と的確に言語化してくれたり、ラフ案やムードボード(雰囲気を示す参考画像の集まり)などで視覚的に分かりやすく提案してくれたりするデザイナーは、イメージのズレを防ぐ手助けとなります。

コミュニケーション能力:報告・連絡・相談がスムーズか

レスポンスの速さ、丁寧さ、説明の分かりやすさなど、基本的なコミュニケーションが円滑に行えるかどうかも重要な判断基準です。専門用語を多用せず、クライアントのレベルに合わせて説明してくれるか、進捗状況をこまめに報告してくれるか、疑問点や懸念点を気軽に相談できる雰囲気があるかなどを確認しましょう。

制作実績と提案力:目的に合ったデザインを提案できるか

過去の制作実績を見る際は、単にデザインのテイストが好みかどうかだけでなく、そのデザインがどのような目的や課題解決のために作られたのか、という背景にも注目してみましょう。多様な業種やテイストのデザインを手がけており、それぞれの目的に合った提案ができているデザイナーは、引き出しが多く、柔軟な対応が期待できます。

最初の打ち合わせや見積もり依頼の段階で、これらの点を意識してデザイナーや制作会社を評価し、信頼できるパートナーを見つけることが、修正ループに陥らないための第一歩と言えるでしょう。

イメージ共有は「成功への羅針盤」

デザイン制作における「完成イメージの共有」は、単なる作業工程の一つではなく、プロジェクト全体の成否を左右する、いわば「成功への羅針盤」です。

発注者と制作者が初期段階でしっかりと完成イメージを共有し、共通認識を持つことができれば、忌まわしい「デザイン修正ループ」を回避し、以下のような多くのメリットを享受できます。

  • 無駄な修正作業の削減による時間とコストの節約
  • スムーズなプロジェクト進行による関係者のモチベーション維持
  • 目的達成に貢献する、より質の高い成果物の実現
  • 相互理解に基づいた良好なパートナーシップの構築

そのためには、

  • 目的や課題の明確化
  • 要望の具体的な言語化
  • 参考イメージの活用
  • ラフ案やプロトタイプによる早期確認
  • 段階的なフィードバック
  • 密なコミュニケーション

といった「完成イメージ共有の極意」を、発注者・制作者双方が意識し、実践していくことが不可欠です。

特に、リソースが限られる中小零細企業にとって、デザイン制作の効率化と成果の最大化は重要な経営課題です。本記事でご紹介した内容が、貴社のデザイン制作プロセスを見直し、より良い成果を生み出すための一助となれば、これほど嬉しいことはありません。

デザインは、ビジネスを成長させるための強力なツールです。その力を最大限に引き出すために、まずは「完成イメージの共有」から始めてみませんか?


marz 無償のデザインコンサルをご希望の方はSquareより予約をお願いいたします。https://marzd.square.site/
marz メールにてコンタクトを取りたい方は、下記メール宛にメッセージを。直接メールを送信する ▶︎