デザインは魔法ではない?その裏側にある「思考」の重要性
「デザイン」と聞くと、多くの方は美しいビジュアルや、洗練されたプロダクトを思い浮かべるかもしれません。まるで魔法のように、何もないところから魅力的なものが生み出される、そんなイメージをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、実際には、デザインは魔法ではなく、緻密な思考プロセスと試行錯誤の積み重ねによって成り立っています。特に、企業の顔となるウェブサイトやパンフレット、ロゴマークなどのデザインにおいては、単に見た目が良いだけではなく、企業の目的達成に貢献するための戦略的な思考が不可欠です。
中小零細企業の経営者様やマーケティング担当者様、ホームページ運用責任者の皆様にとって、デザインはビジネスを成長させるための重要なツールとなり得ます。しかし、「デザイナーに依頼しても、イメージ通りのものが上がってこない」「デザインの効果がよくわからない」といった悩みを抱えている方も少なくないのではないでしょうか。
その原因の一つとして、デザイナーがどのようなプロセスでアイデアを形にしているのか、その「裏側」が見えにくいことが挙げられます。デザイン制作の過程は、依頼主とデザイナー双方にとってブラックボックス化しやすく、認識のズレやコミュニケーション不足が生じやすい領域でもあるのです。
本記事では、普段なかなか目にすることのない、デザイナーの思考プロセス、つまりアイデアが具体的な形になるまでの「裏側」を詳しくご紹介します。このプロセスを知ることで、次のようなメリットが期待できます。
- デザイナーとのコミュニケーションが円滑になる:共通言語を持つことで、要望を的確に伝え、意図を正確に理解し合える
- デザインへの期待値を適切に設定できる:制作にかかる時間や労力、必要な情報などを理解し、現実的な期待を持てる
- より良い成果を得やすくなる:プロセスに積極的に関わることで、デザインの方向性や品質向上に貢献できる
デザインは単なる「お化粧」ではありません。企業の課題を解決し、目標達成を後押しするための、論理に基づいた問題解決のプロセスです。この記事を通じて、デザインの奥深さ、そしてその思考プロセスへの理解を深めていただければ幸いです。
STEP 1:すべての始まりは「聞く」ことから – 課題発見とヒアリング
優れたデザインを生み出すための第一歩、それは徹底的な「ヒアリング」です。デザイナーはまず、お客様の声に真摯に耳を傾けることから始めます。なぜなら、デザインによって何を達成したいのか、その本質的な目的や課題を正確に把握することが、プロジェクト成功の絶対条件だからです。
「かっこいいウェブサイトを作りたい」「おしゃれなパンフレットが欲しい」といった表面的な要望の奥には、必ずと言っていいほど、具体的なビジネス上の目的や課題が隠されています。例えば、「ウェブサイトからの問い合わせを増やしたい」「新商品の認知度を高めたい」「企業のブランドイメージを向上させたい」などです。
デザイナーは、単に言われた通りのものを作る「作業者」ではありません。お客様のビジネスパートナーとして、課題解決に貢献するために、次のような質問を投げかけます。
- 今回のデザイン制作の目的は何ですか?:具体的な目標(KPIなど)があれば、それを共有
- 誰に、何を伝えたいですか?:ターゲット顧客の具体的な人物像(ペルソナ)
- デザインを通じて、ターゲットにどのような行動を促したいですか?:問い合わせ、購入、資料請求など
- 現在、どのような課題を感じていますか?:競合との差別化、情報発信の難しさなど
- 貴社の強みや大切にしている価値観は何ですか?:ブランドの根幹となる部分
- 参考にしたいデザインや、逆に避けたい表現はありますか?:具体的なイメージの共有
- ご予算やスケジュールについて、どのようにお考えですか?:現実的な制約条件の確認
これらの質問を通じて、デザイナーはプロジェクトの全体像を掴み、デザインが目指すべき方向性を明確にしていきます。時には、お客様自身も気づいていなかったような本質的な課題や、新たな可能性が浮かび上がってくることもあります。
ヒアリングは、単なる情報収集の場ではなく、お客様とデザイナーが共通認識を持ち、信頼関係を築くための重要なコミュニケーションの機会です。ここでどれだけ深く、本質的な対話ができるかが、その後のプロセス全体の質を大きく左右します。
ですから、もしデザイナーから多くの質問をされたとしても、それは決して面倒なことではありません。むしろ、お客様のビジネスを深く理解しようとしている証だと捉えていただけると幸いです。このヒアリングこそが、デザインという船が正しい目的地へと進むための、最初の羅針盤を作る工程なのです。
STEP 2:情報を武器に変える – 徹底的なリサーチと分析
ヒアリングによってお客様の目的や課題が明確になったら、次に行うのが徹底的な「リサーチ(情報収集)」と「分析」です。デザインは、単なるひらめきや感性だけで作られるものではありません。客観的なデータや事実に基づいた戦略的なアプローチが不可欠であり、その土台となるのがこのリサーチと分析のフェーズです。
デザイナーは、まるで探偵のように、デザインの方向性を定めるために必要なあらゆる情報を収集し、分析していきます。具体的には、以下のような領域を調査します。
- 市場の動向:業界全体のトレンド:流行のデザインスタイル:技術的な進化など
- 競合他社の分析:競合のデザイン戦略:強みや弱み:ウェブサイトの構成やコンテンツなど
- ターゲット顧客の理解:顧客のニーズや価値観:ライフスタイル:情報収集の方法:デザインに対する好みなど(ペルソナを深掘りする)
- 自社(クライアント企業)の分析:提供する商品やサービスの強み:ブランドの歴史や哲学:既存のデザイン資産:SWOT分析(強み・弱み・機会・脅威)など
これらの情報を収集するために、様々な手法を用います。
- デスクリサーチ:インターネット検索:業界レポート:書籍や論文など、既存の公開情報を調査
- 競合サイト分析:実際に競合他社のウェブサイトや制作物を比較検討
- ユーザーアンケートやインタビュー:ターゲット顧客に直接質問し、生の声を集める
- アクセスデータ分析:既存ウェブサイトがあれば、アクセスログなどを分析し、ユーザー行動を把握
重要なのは、ただ情報を集めるだけでなく、集めた情報を整理し、分析することで、デザイン戦略に繋がる「インサイト(洞察)」を導き出すことです。
例えば、競合他社のウェブサイトを分析することで、「多くの競合が製品の機能ばかりをアピールしているが、顧客は導入後のサポート体制を重視している」といったインサイトが得られるかもしれません。また、ターゲット顧客へのインタビューから、「専門用語が多くて分かりにくいと感じている」という声が聞かれれば、デザインにおいて「分かりやすさ」を最優先すべき、という結論に至るでしょう。
このリサーチと分析のプロセスは、時に地味で時間のかかる作業ですが、デザインの精度と効果を大きく左右する極めて重要な工程です。ここで得られた客観的な根拠が、その後のデザインコンセプトの策定や、具体的なデザイン制作における判断基準となります。しっかりとした土台があるからこそ、ブレのない、的確なデザインを生み出すことができるのです。
闇雲にデザイン制作を始めるのではなく、まずは立ち止まって情報を集め、分析する。このステップを経ることで、デザインは単なる装飾ではなく、明確な目的を持った「戦略的な武器」へと進化します。
STEP 3:デザインの「核」を定める – コンセプトメイキング
ヒアリングで課題を明確にし、リサーチと分析で戦略の土台を築いたら、いよいよデザインの「核」となる部分、「コンセプト」を策定する段階に入ります。コンセプトとは、そのデザインを通じて「誰に」「何を伝え」「どのような印象を与えたいのか」を一言で表現する、デザインの基本方針であり、道しるべとなる考え方です。
コンセプトメイキングは、いわばプロジェクトの「設計図」を描くような作業です。これまでのヒアリングやリサーチで得られた情報(顧客の課題、ターゲットのニーズ、競合の状況、自社の強みなど)を統合し、デザインが目指すべきゴールを明確な言葉で定義します。
良いコンセプトは、以下のような要素を含んでいます。
- ターゲットへの訴求力:誰に向けたデザインなのかが明確であること
- 伝えるべきメッセージ:デザインを通じて最も伝えたい価値や情報が凝縮されていること
- 目指す印象(トーン&マナー):デザイン全体で醸し出す雰囲気や世界観(例:信頼感、先進性、親しみやすさ、高級感など)
- 独自性:競合との差別化を図り、自社ならではの魅力を表現できていること
- 一貫性:デザインだけでなく、企業の活動全体との整合性が取れていること
例えば、ある地方の中小企業が「地域密着で、長年培ってきた技術力と信頼性をアピールし、若手経営者層からの問い合わせを増やしたい」という目的を持っていたとします。この場合、コンセプトは「伝統と革新の融合:次世代に繋ぐ、信頼の技術力」といった形で表現できるかもしれません。
このコンセプトに基づき、デザインの具体的な方向性(トーン&マナー)も決まっていきます。上記の例であれば、「落ち着いた色調をベースにしつつ、現代的なタイポグラフィやレイアウトを取り入れることで、信頼感と先進性を両立させる」といった具合です。
コンセプトが明確であれば、その後のアイデア発想や具体的なデザイン制作において、判断に迷うことが少なくなります。例えば、複数のデザイン案が出てきた場合でも、「どちらがよりコンセプトを体現しているか?」という基準で客観的に評価し、選択することができます。また、デザイナーとお客様の間での認識のズレを防ぎ、スムーズな意思決定を促す効果もあります。
逆に、コンセプトが曖昧なままデザイン制作を進めてしまうと、方向性が定まらず、修正が繰り返されたり、最終的に「何だかよく分からないもの」が出来上がってしまったりするリスクが高まります。コンセプトメイキングは、効果的なデザインを生み出すための羅針盤であり、プロジェクト全体の質を担保する重要なプロセスなのです。
デザイナーは、お客様との対話を通じて、この「核」となるコンセプトを共に創り上げていきます。単に言葉を作るだけでなく、ビジュアルイメージ(ムードボードなど)を用いて、目指す世界観を共有することもあります。この段階でしっかりと時間をかけ、関係者全員が納得できるコンセプトを定めることが、プロジェクト成功への近道となります。
STEP 4:アイデアの泉を掘り起こす – 発想とスケッチ
明確なコンセプトという羅針盤を手に入れたら、次はいよいよ具体的なアイデアを形にしていく「アイデア発想」と「スケッチ」の段階です。ここでは、設定されたコンセプトに基づき、デザインの可能性を最大限に広げ、最適な表現方法を探求していきます。
このフェーズは、デザイナーの創造性が最も発揮される場面の一つですが、決して闇雲にアイデアを出すわけではありません。これまでのヒアリング、リサーチ、コンセプトメイキングで得られた情報を土台として、論理的に、かつ自由な発想でアイデアを広げていきます。
アイデア発想には、様々な手法が用いられます。
- ブレインストーミング:質より量を重視し、固定観念にとらわれず、自由な発想でアイデアをどんどん書き出す
- マインドマップ:中心となるテーマ(コンセプト)から、関連するキーワードやイメージを放射状に広げ、思考を整理・拡張する
- キーワード連想:コンセプトに関連するキーワードから、さらに別の言葉やイメージを連想していく
- オズボーンのチェックリスト:既存のアイデアに対して「転用できないか?」「応用できないか?」「変更できないか?」など、特定の質問を投げかけ、新たな視点を得る
- 強制連想法(マンダラートなど):関係なさそうな要素を強制的に結びつけ、意外なアイデアを生み出す
これらの手法を用いて、まずはできるだけ多くのアイデアの「種」を生み出すことを目指します。この段階では、「これは実現不可能かも」「これは奇抜すぎるかも」といった批判的な思考は一旦脇に置き、発想の幅を広げることが重要です。多様なアイデアを出すことで、思いもよらなかった斬新な切り口や、より効果的な表現が見つかる可能性が高まります。
そして、たくさんのアイデアが出てきたら、それらを「スケッチ」によって素早く可視化していきます。スケッチといっても、必ずしも綺麗な絵を描く必要はありません。ラフな線画や簡単な図形、キーワードの組み合わせなどで、アイデアの骨子を掴むことが目的です。
- ラフスケッチ:アイデアの概要を素早く描き留める:細かい部分にはこだわらない
- サムネイルスケッチ:小さな枠の中に、レイアウトや構成のアイデアを複数パターン描く
- ワイヤーフレーム(ウェブサイトの場合):ページの骨組みや要素の配置を示す簡単な設計図
スケッチは、頭の中にある抽象的なアイデアを具体化し、客観的に検討するための有効な手段です。描いてみることで、アイデアの良い点や改善点が見えてきたり、新たな発想が生まれたりします。また、複数のスケッチを比較検討することで、コンセプトに最も合致し、かつ効果的な表現を絞り込んでいくことができます。
このアイデア発想とスケッチのプロセスは、一直線に進むとは限りません。アイデアを出してはスケッチし、それを眺めてまた新たなアイデアを考え…というように、行ったり来たりを繰り返しながら、徐々にアイデアを洗練させていきます。デザイナーの頭の中では、常にコンセプトとの整合性、ターゲットへの訴求力、実現可能性などを天秤にかけながら、最適な解を探る思考が巡らされています。
この試行錯誤のプロセスを経て、最終的にいくつかの有望なデザインの方向性が絞り込まれ、次の「デザイン制作」のステップへと進むことになります。
STEP 5:カタチにする喜びと難しさ – デザイン制作
アイデア発想とスケッチでデザインの方向性が定まったら、いよいよそれを具体的な「カタチ」にしていく、デザイン制作のフェーズに入ります。これまでのステップで練り上げてきたコンセプトやアイデアを、ソフトウェアやツールを駆使して、目に見えるデザインとして具現化していく作業です。
多くの人が「デザイン」と聞いてイメージするのは、この制作段階かもしれません。デザイナーは、Adobe IllustratorやPhotoshop、Figmaといった専門的なソフトウェアを使いこなし、これまで集めてきた情報やアイデアを、ピクセル単位、ミリ単位で調整しながら、一つの制作物として組み上げていきます。
この段階で検討されるデザインの要素は多岐にわたります。
- レイアウト:情報の優先順位に基づき、要素を効果的に配置する:視線の流れを意識する
- 配色:コンセプトや与えたい印象に基づき、最適な色の組み合わせを選ぶ:ブランドカラーを考慮する
- タイポグラフィ(文字):書体(フォント)の選定:文字の大きさや太さ、行間、字間などを調整し、読みやすさとデザイン性を両立させる
- 画像・イラスト:写真やイラスト素材の選定、または新規作成:品質や著作権に配慮する
- アイコン・図形:情報を分かりやすく伝えたり、デザインのアクセントとして使用したりする
- インタラクション(ウェブサイトの場合):ボタンの動きやアニメーションなど、ユーザーの操作に対する反応を設計する
デザイナーは、これらの要素を一つひとつ丁寧に検討し、コンセプトから逸脱しないよう、常に全体のバランスを見ながら調整を重ねていきます。単に見た目の美しさだけでなく、機能性や使いやすさ(ユーザビリティ)、そしてターゲットとするユーザーに意図したメッセージが正確に伝わるか、といった視点が重要になります。
特にウェブサイトやアプリケーションのデザインにおいては、様々なデバイス(パソコン、スマートフォン、タブレット)での表示に対応すること(レスポンシブデザイン)や、色覚障がいのある方や高齢者など、多様なユーザーが問題なく利用できること(アクセシビリティ)への配慮も不可欠です。
この制作プロセスは、創造的な喜びがある一方で、非常に地道で根気のいる作業でもあります。コンセプトを最適な形で表現するために、ミリ単位での調整に何時間も費やしたり、何十種類もの配色パターンを試したりすることも珍しくありません。デザイナーは、細部にまでこだわり抜くことで、デザインの質を高め、最終的なアウトプットの完成度を追求します。
多くの場合、この段階でいくつかのデザインバリエーション(通常は2〜3案程度)を作成し、お客様に提案します。それぞれの案が、どのような意図でデザインされているのか、コンセプトとどう結びついているのかを丁寧に説明し、お客様と共に最適なデザインを選んでいくための準備をします。
このデザイン制作のステップは、これまでの思考プロセスが集約され、具体的な形となって現れる重要な局面です。デザイナーのスキルや経験はもちろんのこと、コンセプトに対する深い理解と、細部へのこだわりが、最終的なデザインの質を決定づけると言っても過言ではありません。
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