見過ごされていませんか?会社の「宝」
日々の業務に追われる中で、過去に制作したデザイン物が、いつの間にか共有サーバーの奥深くや、担当者のローカルフォルダに眠ってしまっている。多くの中小企業で、このような光景が見られるのではないでしょうか。
かつて時間とコストをかけて生み出されたロゴ、パンフレット、ウェブサイトデザインなどが、十分に活用されることなく、その価値を発揮できずにいるのは、非常にもったいないことです。
デザインは、単なる表面的な装飾ではありません。それは企業の理念や価値観を伝え、顧客との信頼関係を築き、競合との差別化を図るための強力なコミュニケーションツールです。そして、これまでに生み出されてきたデザイン関連の制作物は、単なる「過去の成果物」ではなく、将来にわたって利益を生み出す可能性を秘めた、御社固有の「資産」となり得るのです。
しかし、その価値に気づかず、あるいは気づいていても活用する方法が分からず、多くのデザイン資産が「眠ったまま」になっているのが現状です。本記事では、そんな御社の中に眠る「デザイン資産」に光を当て、それらを戦略的に活用し、具体的な利益へと変えていくための実践的な方法について、詳しく解説していきます。見過ごされてきた「宝」を発掘し、ビジネス成長の新たな推進力へと変える旅を、ここから始めましょう。
第1章:「デザイン資産」とは何か?
デザイン資産の定義:単なる制作物からの脱却
まず、「デザイン資産」とは具体的に何を指すのでしょうか。これは、企業がその活動を通じて生み出し、保有しているあらゆるデザイン関連要素および制作物を包括的に捉えた概念です。単に「昔作ったもの」という認識から一歩進んで、将来的な価値創造に貢献しうる経営資源として捉え直すことが重要です。
具体的には、以下のようなものがデザイン資産に含まれます。
- 基本的なデザイン要素:ロゴマーク、シンボルマーク、ブランドカラー(カラースキーム)、標準書体(フォント)など
- 印刷物:名刺、封筒、レターヘッド、会社案内、製品カタログ、パンフレット、チラシ、ポスター、DMなど
- デジタルコンテンツ:ウェブサイトデザイン(全体、パーツ、LP)、バナー広告、SNS用画像・動画、メールマガジンテンプレート、プレゼンテーション資料(PowerPoint、Keynoteなど)のテンプレートや素材
- その他のクリエイティブ:製品パッケージデザイン、キャラクターデザイン、オリジナルイラスト、写真素材(商品写真、イメージ写真、スタッフ写真など)、プロモーション動画、イベントブースデザイン、過去の広告キャンペーンで使用したクリエイティブ一式など
これらは、制作時にコストが発生していますが、それだけで終わらせるのではなく、適切に管理・活用することで、将来のコスト削減や新たな収益機会の創出に繋がる「資産」としての側面を持っているのです。
なぜ「資産」と呼べるのか?
これらのデザイン関連要素が、なぜ単なる「制作物」ではなく「資産」と呼べるのでしょうか。それにはいくつかの理由があります。
- 再利用によるコスト削減効果:一度作成したデザイン要素を再利用したり、少し改変して流用したりすることで、ゼロから新しいデザインを制作する場合と比較して、デザイン費用や制作時間を大幅に削減できます。
- ブランド価値向上への貢献:ロゴやブランドカラーなどを一貫して使用することで、顧客は企業や製品・サービスを認識しやすくなります。統一されたデザインは、ブランドイメージの向上、信頼感や専門性の醸成に繋がり、長期的なブランド価値を高めます。
- 新たな価値創造の起点:過去のデザインを見直すことで、新しい商品開発のヒントが得られたり、現代的なアレンジを加えて新たな魅力を引き出したりすることが可能です。眠っていたデザインが、イノベーションの種となる可能性を秘めています。
- 企業の歴史と文化の継承:創業時から使われているロゴや、節目ごとに作られた記念誌などは、企業の歩んできた歴史や培われてきた文化を物語る貴重な資料です。これらは、インナーブランディング(社内へのブランド浸透)や、企業のストーリーを語る上で重要な役割を果たします。
このように、デザイン資産は、直接的・間接的に企業の経済活動に貢献する可能性を持つため、「資産」として認識し、戦略的に管理・活用していくことが求められるのです。
第2章:なぜ貴重なデザイン資産が「眠って」しまうのか?
多くの企業で、価値あるデザイン資産が有効活用されずに眠ってしまっている背景には、いくつかの共通した原因が存在します。自社にも当てはまる点がないか、確認してみましょう。
属人化の壁:担当者しか知らない、使えない
デザイン制作や管理が、特定の担当者に「属人化」しているケースは非常に多く見られます。
- 担当者の退職・異動:デザインデータを作成した担当者や、管理方法を知っている担当者が退職したり、他の部署へ異動したりすると、データのありかや詳細な仕様、制作意図などが分からなくなってしまうことがあります。引き継ぎが不十分な場合、後任者は手探りで作業するか、最悪の場合、既存のデザイン資産の存在すら知らずに、類似のものを再作成してしまうことにもなりかねません。
- データ保管場所の散在:正式な共有フォルダではなく、担当者の個人のパソコンや外付けハードディスク、個人的なクラウドストレージなどにデータが保存されている場合、他の従業員がアクセスできず、組織としての資産になっていない状態です。
- 制作意図の不共有:なぜそのデザインになったのか、どのようなコンセプトで作られたのかといった背景情報が共有されていないと、デザインの本質的な価値を理解し、適切に再利用することが難しくなります。
管理体制の不備:どこに何があるか分からない
デザイン資産を一元的に管理し、誰もが必要な時にアクセスできるような体制が整っていないことも、資産が眠る大きな原因です。
- ファイル命名規則の欠如:「logo_fix_ver2_saishu.ai」のような、作成者しか意味の分からないファイル名が乱立していると、後からデータを探す際に膨大な時間がかかったり、誤って古いバージョンのデータを使用してしまったりするリスクがあります。
- バージョン管理の不在:デザインデータは、修正を重ねる過程で複数のバージョンが生まれがちです。どれが最終版(最新版)なのか、どのような変更が加えられたのかが記録されていないと、意図しない古いデザインを使ってしまう可能性があります。
- 保管場所・アクセス権の未整備:デザインデータを保管する正式な場所が決められていなかったり、部署や役職に応じて適切なアクセス権限が設定されていなかったりすると、セキュリティのリスクや、必要な人が必要な時にデータを利用できないという問題が生じます。
結果として、「あのデータ、どこにあったかな?」「探すのが面倒だから、新しく作ってしまおう」ということになり、既存の資産が活用される機会を失ってしまうのです。
価値認識の欠如:「古いもの」という思い込み
経営層や従業員の間に、デザイン資産の価値に対する認識が低いことも、活用が進まない一因です。
- 時代遅れという先入観:「昔のデザインは古臭い」「今の時代には合わない」といった思い込みから、過去の制作物を見直すことなく、活用対象から外してしまうケースがあります。しかし、デザインの本質的な価値は、必ずしも新しさだけにあるわけではありません。
- デザインへの理解不足:デザインを単なる「お化粧」程度にしか捉えておらず、ブランド構築やコミュニケーションにおける戦略的な重要性が十分に理解されていない場合、デザイン資産の管理や活用にリソースを割く優先順位が低くなりがちです。
- 多忙による後回し:日々の業務に追われる中で、緊急度の高いタスクが優先され、重要ではあっても緊急ではないデザイン資産の見直しや整理は、どうしても後回しにされがちです。
権利関係の曖昧さ:使って良いのか分からない不安
デザイン資産を活用しようにも、その権利関係が不明確なために、二の足を踏んでしまうケースもあります。
- 契約内容の不備・紛失:外部のデザイナーや制作会社に依頼して作成したデザインについて、著作権の譲渡や使用許諾範囲などを定めた契約書が交わされていない、あるいは紛失してしまった場合、どこまでの範囲で自由に利用して良いのか分からなくなります。
- 素材ライセンスの管理不備:デザイン制作に使用した写真素材やイラスト素材が、フリー素材なのか、有料で購入したものなのか、ライセンスの範囲(商用利用可否、加工可否、利用期間など)はどうなっているのか、といった情報が管理されていないと、意図せずライセンス違反を犯してしまうリスクがあります。
権利侵害のリスクを恐れるあまり、本来なら活用できるはずのデザイン資産が、使われることなく眠り続けてしまうのです。これらの原因を理解することが、デザイン資産を掘り起こし、活用するための第一歩となります。
第3章:眠れる獅子を起こす!デザイン資産の「棚卸し」術
社内に眠るデザイン資産を発掘し、活用可能な状態にするためには、まず「棚卸し」を行うことが不可欠です。これは、単にデータを集めるだけでなく、整理し、評価するプロセスを含みます。手間はかかりますが、この工程を丁寧に行うことが、後の戦略的な活用を成功させるための鍵となります。
ステップ1:ありかを探す(収集)
まずは、社内に散らばっている可能性のあるデザイン資産を、可能な限り集めるところから始めます。宝探しのような作業になるかもしれませんが、根気強く取り組みましょう。
- 関係部署への協力依頼:マーケティング部、広報部、営業部、商品開発部、総務部など、デザイン制作に関わった可能性のある全ての部署に協力を仰ぎます。「過去に作成したロゴデータはありませんか?」「〇〇年のキャンペーンで使ったポスターデータは残っていませんか?」など、具体的に問いかけると効果的です。
- 過去の担当者へのヒアリング:退職者や異動者も含め、過去にデザイン関連業務に携わっていた人に連絡を取り、データの保管場所や内容について情報を得ます。
- 保管場所の探索:社内の共有サーバーはもちろん、個々の従業員のPCのローカルフォルダ、外付けHDD、USBメモリ、CD-ROM/DVD-ROMなどの記録メディア、個人のクラウドストレージ(Dropbox, Google Driveなど)、さらにはキャビネットに保管されている紙媒体の印刷物なども調査対象です。
- 外部協力会社への問い合わせ:デザイン制作を依頼したことのあるデザイン会社、印刷会社、ウェブ制作会社などに連絡を取り、過去の納品データが残っていないか確認します。
この段階では、良し悪しを判断せず、とにかく見つけ出すことに集中します。「こんな古いもの」と思わず、あらゆる可能性を考慮して収集しましょう。
ステップ2:整理整頓する(分類・記録)
収集したデザインデータを、後で誰でも理解し、アクセスしやすいように整理・管理する体制を整えます。
- 一元管理:収集したデータを、社内の特定の共有サーバーや契約しているクラウドストレージサービスなど、一箇所に集約します。物理的な媒体(紙、CDなど)しかない場合は、スキャンしてデジタルデータ化することも検討します。
- 分類ルールの設定:集めたデータを分かりやすく分類するためのルールを決めます。
- 種類別:ロゴ、名刺、パンフレット、ウェブサイト、写真、イラストなど
- プロジェクト別:〇〇キャンペーン、△△製品、□□展示会など
- 制作時期別:2020年、2021年、2022年など
これらの基準を組み合わせて、フォルダ階層を設計すると良いでしょう。(例: /デザイン資産/ロゴ/最新版/logo_color.ai)
- 命名規則の統一:ファイル名は、誰が見ても内容を推測できるように、一貫したルールに基づいて命名します。(例: [制作年]_[プロジェクト名]_[アイテム名]_[バージョン].拡張子 → 2023_春キャンペーン_チラシ_v3.ai)
- メタ情報(タグ)の付与:ファイル名だけでは表現しきれない情報を補足し、検索性を高めるために、メタデータやタグを活用します。ファイル管理システムや一部のOSでは、ファイルにタグを付ける機能があります。(例: #ロゴ #ブランド刷新 #web用 #印刷用 #承認済)
- 関連情報の記録:各デザイン資産について、以下の情報を可能な限り記録し、データと共に管理します。一覧表(Excelなど)を作成すると便利です。
- ファイル名:統一された命名規則に基づくファイル名
- データ形式:ai, psd, jpg, png, pdf, pptx など
- 制作年月日:いつ作られたものか
- 制作者:社内の担当者名、または依頼した外部の会社名・デザイナー名
- 制作意図・コンセプト:どのような目的・考えで作られたか
- 使用実績:どの媒体やプロジェクトで、いつ使用されたか
- 権利情報:著作権者は誰か:使用許諾範囲(期間、地域、媒体など):ライセンス情報(素材の場合)
- バージョン情報:最新版かどうか:変更履歴(分かれば)
- 保管場所:データがどこにあるか(パス)
- プレビュー画像:内容を視覚的に確認できるサムネイル画像(可能であれば)
この整理作業は、デザイン資産管理の基盤となります。ルールを明確にし、関係者で共有することが重要です。
ステップ3:価値を見極める(評価)
整理されたデザイン資産を一つひとつ見ながら、その価値を評価し、今後の活用可能性を探ります。
- デザイン品質の評価:
- 現在のブランドイメージとの整合性:今の会社の方向性やメッセージと合っているか
- デザインの普遍性・時代性:古さを感じさせないか:逆にレトロな価値があるか
- 汎用性・展開可能性:他の媒体にも応用できそうか
- 権利関係の再確認:ステップ2で記録した権利情報を元に、利用規約や契約書を再度確認し、法的な問題なく安全に利用できるかを確認します。不明な点があれば、制作会社に問い合わせたり、専門家(弁護士や弁理士)に相談したりすることも検討します。
- 活用可能性の検討:上記の評価を踏まえ、そのデザイン資産を今後どのように活用できそうか、具体的なアイデアを検討します。「そのまま使える」「一部修正すれば使える」「アイデアの参考にできる」「権利的に使えない」「品質的に使えない」といったステータスを付与します。
- 記録の重要性:「使えない」と判断したものについても、その理由(例:権利不明、デザインが古い、低解像度すぎる)を記録しておくことが重要です。なぜ使えなかったのかを知ることは、将来の失敗を防ぐための学びとなります。
この評価プロセスを経て、初めてデザイン資産は「活用可能な状態」になります。手間を惜しまず、丁寧に進めることが、後の成果に繋がります。
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