日本でデザイン業務に携わる人なら誰しも経験があるのではないでしょうか。クライアントからの「もう少しここをこうしてほしい」「やっぱり前の案に戻したい」という修正依頼が続き、いつの間にかデザイン案の修正回数が数十回に及ぶケース。

デザイナー側は疲弊し、発注側も当初の目的を見失いがちです。

一方で、米国の建築設計やデザイン制作の現場では、デザインレビューを明確な段階に分け、パーセントで進捗を管理する仕組みが広く採用されています。

このアプローチを日本でも取り入れることで、時間と労力を節約し、より良いデザインを生み出せる可能性があります。

今回はその仕組みと、日本への導入を提案します。

米国式デザインレビューの基本

米国の多くの設計事務所やデザイン会社では、プロジェクトを以下のような段階に分けて進めます:

  • 30%デザイン:Preliminary Design (30%):プレリミナリー:初期コンセプトやスケッチを提案。方向性を決める段階
  • 60%デザイン:Pre-Final Design (60%):プリファイナル:詳細な設計図や仕様が加わり、具体性がぐっと増す。ここで大きな修正が入ることも
  • 90%デザイン:Final Design (90%):ファイナル:ほぼ完成形。細かい調整のみで済む状態
  • 100%デザイン:Complete Design (100%):コンプリート:施工や制作に進むための最終図面やデータが揃う

各段階で進捗をパーセントで示すことで、発注側も受注側も「今どのくらい完成に近づいているか」を把握できます。さらに重要なのは、各段階ごとにレビューを行い、そこで承認された内容をベースに次に進むというルール。これにより、後から大幅なやり直しが減り、効率的にプロジェクトが進むのです。

日本の現状と課題

一方、日本ではどうでしょう?クライアントとの密なコミュニケーションを重視する文化が根強く、デザイン案に対する修正が繰り返されることは珍しくありません。

例えば、ある建築設計事務所の話では、住宅プロジェクトで外観デザインだけで20回以上修正が入ったこともあるとか。

デザイナーとしては「もっとこうしたい」という情熱が、クライアント側では「まだ決めきれない」という優柔不断さにつながり、結果的に双方にとってストレスに。

下請法に違反した例では、Vチューバーが扮するキャラクターの制作を委託した事業者に、計243回もの無償修正をさせたニュースもありましたね。

このような状況では、時間もコストも膨らむばかりで事業として成り立ちません。

日本版「段階的デザインレビュー」の提案

では、米国式の仕組みを日本にどう取り入れるか。以下は現実的なアイデアです:

  • 段階とパーセントを契約に明記

    プロジェクト開始時に、「30%でコンセプト確定」「60%で詳細設計」「90%で最終確認」といったマイルストーンを契約書に盛り込む。これで双方の期待値を揃え、「後戻り修正」を最小限に抑えられます。

  • レビュー回数の上限を設定

    各段階で修正回数を例えば3回までと決める。無制限に修正を許すと焦点がぼやけるので、「この段階ではこれを決める」という意識を共有することが大事です。

  • ビジュアルで進捗を共有

    パーセント表示に加え、図やスケッチで「今どこまで進んでいるか」をクライアントに見せる。言葉だけでなく視覚的な納得感を持たせることで、修正の方向性も絞りやすくなります。

  • クライアント教育を進める

    日本ではクライアント側がデザインのプロセスに慣れていない場合も多いので、初回ミーティングで「段階的な進め方」を丁寧に説明。理解が深まれば、無駄な修正依頼が減るはずです。

導入のメリットと成功例

この仕組みを取り入れれば、デザイナーは創造性を発揮する時間が増え、クライアントは予算と納期を守りやすくなります。

実際に米国では、政府機関や大手設計事務所がこの手法で数々のプロジェクトを成功させています。

ニューヨークの再開発プロジェクトでは、段階ごとのレビューでクライアントの要望を効率的に反映しつつ、スケジュール通りに完工。

日本でも、一部の著名建築家が手掛ける国際的なプロジェクトでは、こうした仕組みが部分的に取り入れられているケースが見られるようです。

まとめ:効率と創造性の両立へ

デザイン業務は、限られた時間とリソースの中で成果を出す仕事でもあります。米国式の段階的デザインレビューを日本風にアレンジして導入すれば、修正の無限ループから抜け出し、デザイナーとクライアント双方が満足できる結果に近づけるのではないでしょうか。まずは小さなプロジェクトで試してみて、フィードバックを基に調整していく。そんな一歩から始めてみたいものです。